2023年
1月号
1月号
竹中大工道具館 叡智の彼方へ|第四回| 棟梁の品格
西岡常一の図面と道具
西岡常一(一九〇八―一九九五)は奈良斑鳩の堂宮大工。法隆寺の昭和大修理や薬師寺の伽藍復興という難事業を成し遂げた名棟梁として知られています。
修理工事は建築史や考古学、構造設計の専門家等が参加して方針を決定しますが、自らの考えと食い違うときには、学者に対してすら一歩も引かずに舌鋒鋭く反論するので「法隆寺に鬼がいる」と評されました。
西岡棟梁を支えたのは現場から得られた知識でした。古材に残った刃物の痕や凹み、細かな寸法などを詳しく記録していたことが残された技術ノートからうかがえます。
その知識をもとに復元設計も行っていました。展示しているのは法輪寺三重塔再建時(一九六八年)に西岡棟梁が自ら烏口(昔のペン)で引いたものです。今日の大工は施工のみ請け負うことが多いのですが、かつては設計から施工まですべて請け負っていました。棟梁ともなれば道具を使うだけではなく、調査や設計、現場管理、建築儀式(上棟式等)など様々な仕事をこなす必要があったのです。
図面の向かいには西岡棟梁が用いた道具3点を展示しています。その刃先を見ると、今でもピッと切れそうな緊張感が漲っています。大工の実力は道具を見ればわかると言いますが、まさにそのことが実感できます。このコーナーでは西岡棟梁が残した名言を過去に録音した棟梁自身の声で聞くこともできます。日本が誇る棟梁の技と知恵をぜひ体感していただければと思います。
(主任学芸員・坂本忠規)
竹中大工道具館
TAKENAKA CARPENTRY TOOLS MUSEUM
神戸市中央区熊内町7-5-1
Tel.078-242-0216
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)
開館時間:9:30~16:30(入館は16:00まで)
https://www.dougukan.jp/