12月号
「こども本の森 神戸」オープンから半年 建築家・安藤忠雄さんに聞く
TADAO ANDO KOBE Children’s Book Forest
ゆっくりと時間をかけて、愛される施設へと育ってほしい
建築家の安藤忠雄さんが設計・建築し、神戸市に寄贈いただいた「こども本の森 神戸」がオープンして半年が過ぎた。連日多くの子どもたちが訪れ、本に親しみ読書を楽しんでいる。この様子を見て今思うことをお聞きし、子どもたちの未来へ向けてのメッセージを頂いた。
子どもたちの豊かな感性を育む。そんな願いを込めて
今日もたくさんの子どもたちが来てくれて、本を楽しんでいます。3月にオープンしましたから、半年以上たちましたが、予想以上に盛況でびっくりしています。これからの社会を支えていく子どもたちに、豊かな感性を育んでもらいたい、そんな願いを込めてつくりましたので、ここで熱心に読書を楽しむ子どもたちをみると嬉しくなります。何度も足を運んで、たくさんの本と出会い、その世界を楽しんでほしいですね。「こども本の森 神戸」も、ゆっくりと時間をかけて、より人々に愛される施設へと育ってほしいと思います。それは神戸市と、館のスタッフの皆さんの努力にかかっています。
人生100年を楽しく生きるための「心の栄養」
つい30年くらい前までは、長寿と言われた日本人の平均寿命ですら70代半ばで、70歳を超えたあたりから皆自分の死を意識していたものです。しかし今や平均寿命は85歳になり、90歳、100歳まで生きるのが当たり前の時代となりました。サントリーの佐治敬三さんは「人生は楽しないとどないすんねん」と言われていましたが、100歳まで楽しく生きるには、若い頃から体力と好奇心を養っておく必要があります。そのためにどうすればよいかと考えると、やはり本を読むことが大切なんですね。もちろん実体験も重要ですが、新しい世界に挑戦し切り開いていく原動力は、読書を通して養うことができます。読書は想像力を育て、新しい発見を与えてくれる「心の栄養」なんです。こども本の森にはこれまで見たことないような本がいっぱいありますから、ぜひここで幼いころから、生きる力を蓄えて欲しいと思います。
放課後の自由な遊びが判断力を養い、責任感を育む
今の時代、自由な精神を持った子どもを育てるのは、本当に難しいことだと思います。
私は祖母に育てられたのですが、「宿題は学校で終わらせてから帰ってきなさい」と言われていました。教科書は学校に置いて来いと。宿題をやって学校から帰ってきたら、野球をやったり相撲を取ったりする。毎日野原を走り回り、とにかく全力で遊んだものです。年の離れた子どもたちとの交流や、自然環境の中から、命に対する愛情など、生きていく上で最も大切なことは、ほとんど遊びから学びました。
放課後は、子どもが子どもらしくできる大切な余白の時間です。でもいまはその放課後が無い。子どもたちはひたすら塾通いで遊びたくても遊べない。私は下町で育ったから、生活環境には音楽や文学などの文化的要素は皆無でしたが、自由だけはありました。今の子どもたちにはその自由がない。親は勇気を持って、もっと子どもを放任するべきだと思います。受験勉強よりも、自分で判断するトレーニングをしたほうが、「責任ある個人」を育てることができると思うのです。
市民の深い愛情と誇りが、まちの魅力を保っている
建築は単体で成り立つものではありません。周囲の環境に少なからず影響を与えるものです。建築を設計するときも、都市景観や自然環境には十分配慮して、既存の文脈を活かした計画とすることを第一に考えます。
海と山が近接し、美しい景観を織りなす神戸の街に対しては特別な思いがあります。北野町や旧居留地には歴史を重ねた魅力的な建築が点在し、文化の集積地にふさわしい都市景観を構成しています。
1995年の震災で壊滅的な被害を受けながらも復興を成し、美しい街並を取り戻しました。神戸の街がこのように震災を乗り越え、その魅力を保ち続けているのは、なにより市民たちの都市に対する深い愛情によるものだと思います。子どもたちも、自分たちの住むまちに誇りをもって生きているように思います。
震災の記憶を継承しつつ、次の時代へ羽ばたく子どもを
そんな神戸の中心地、東遊園地の震災モニュメントの近くに子どものための図書館が出来たことは、大変象徴的なことだと思っています。
震災の記憶を継承しつつ、次の時代に向け新しい世界に一歩踏み込むことのできる、感性豊かな子どもたちが羽ばたいていくような施設になればと考えます。