9月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.13
神戸大学医学部附属病院 膠原病リウマチ内科 三枝 淳先生に聞きました。
役に立つはずの免疫力が自分の体を攻撃してしまう「膠原病」。患者数が多い関節リウマチもその一種だそうです。早期発見するにはどうしたらいいのか?治療法はどこまで進歩しているのか?三枝先生にお聞きしました。
―膠原病とは?
本来、体内に入ってきたウイルスや細菌を排除する役目を果たす免疫力が、何らかの理由で自分自身の臓器などを攻撃してしまう病気のグループが膠原病です。「全身性自己免疫疾患」と同義です。
―関節リウマチもグループに入るのですか。
はい。リウマチは免疫系が関節を攻撃する病気で、膠原病の一つです。グループの他の疾患に比べて患者さんの数が多いので、科名を「膠原病リウマチ内科」としています。
―関節リウマチはどれくらい多いのですか。女性に多いと聞きますが…。
膠原病は比較的まれな疾患が多いのですが、関節リウマチは全国で70万から100万人の患者さんがいるといわれています。
一般病院の膠原病リウマチ内科では60~70%ほどが関節リウマチの患者さんですが、神戸大学病院ではより難しい病態の膠原病患者さんを受け入れるという事情があり、リウマチ患者さんは30~40%程度です。通院患者さんの約60~70%が女性ですから女性が極端に多いというわけではないですね。
―稀な疾患にはどういうものがあるのですか。
代表的なのは全身性エリテマトーデスといって、名前の通り頭のてっぺんから足の先まで全身のどこにでも病変が起こり得る疾患で、主に20~30代の若い女性に発症します。特定の臓器というわけではなく、脳や心臓、肺、腎臓など、患者さんによって起きる場所が違い、複数箇所で発症するケースも多いです。
―全身性エリテマトーデスの初期症状は?
体のどこから発症するか分かりませんので初期の段階で発見するのが難しいこともあります。最初は自覚症状が出た臓器の科を受診されることが多いですが、そこで診察された先生が膠原病を疑われ、紹介状を持って受診されます。
この病気の患者さんについては90%以上が女性です。総じて膠原病の発症は男性より女性に多く、女性ホルモンの影響なども考えられますが、証明はされていません。
―関節が変形するリウマチは怖い病気ですが、そこに至るまでのサインは?
手の指の痛みから始まることが多いです。理由は分からないのですが、左右両方の手に同時に起きることがほとんどです。受診された患者さんで片手にしか症状がない場合は、別の病気が判明することが多いです。
もう一つは、朝の手のこわばりです。起きてからしばらく手指の関節が動かしにくいことがあるなら、関節リウマチを疑う必要があります。
―どんな検査で、どのように診断するのですか。
症状が一番大切ですが、抗CCP抗体とリウマトイド因子という2種類の血液検査も参考にします。初期の段階のレントゲン検査で、ほんのわずかな骨の壊れた部分「骨びらん」を発見することもあり、こういったケースでは早めに強い治療を開始することが大切です。
―治療法はどこまで進歩しているのですか。
免疫に深く関わっている血液中のサイトカインという物質が影響していることは以前から分かっていましたが、その働きを阻害する生物学的製剤が開発されました。日本でも約20年前から使えるようになり治療が目覚ましく進歩しました。今では生物学的製剤は関節リウマチ以外の膠原病でも使われています。
残念ながら完治に導くことはできませんが、病気のことをほとんど忘れて生活ができる寛解と呼ばれる状態に導くことは可能になりました。
―生物学的製剤を使うことで、寛解できる病気になったのですね。
ただし、この薬は免疫力を弱めることになりますから、リスクの高い患者さんには使用できません。飲み薬ではなく、患者さん自身が定期的に注射をしなくてはならず、副作用が出る場合もあります。治療費も高額になりますから、現段階では関節リウマチの患者さん全員に使える薬ではありません。使用が可能な患者さんの場合、自分に合う薬が見つかれば関節の変形が全く進行しないということも可能になりました。
―合う生物学製剤が見つからなければ?
痛みを和らげ、関節の変形の進行をできるだけ抑える薬を組み合わせて服用することになります。生物学的製剤のように革命的とはいえないまでも、これらの薬も着実に進歩しています。JAK阻害薬という新薬も登場しました。関節リウマチは以前のように発症したら一生苦しみ続けるしかないというような怖い病気ではなくなりつつあります。
―治療のほとんどが薬によるものですか。
関節リウマチは、最近は40~50代以降に発症する方が多いです。例えば膝関節や股関節が変形して歩けなくなってしまうと、その後のQOLを大きく低下させ、認知症のリスクなども高まります。そこで、整形外科の先生の協力を得て外科的手術で関節の変形を治療することもあります。
―どんな人が関節リウマチになりやすいのでしょうか。遺伝もあるのですか。
原因が分からないのでどんな人がなりやすいかは限定できず、遺伝的素因と環境因子が重なり合って発症する病気ということしか言えないのが現状です。
いわゆる遺伝病ではありませんので、「子どももリウマチになるのでは?」と心配される患者さんがおられたら説明しています。
―予防法はありますか。
あるといいのですが…。
残念ながら今のところはこれといった予防法はありません。初期の症状に気付いたら専門医を受診して検査を受け、リウマチと診断されたら早目に治療を始めることをお勧めします。
神戸大学医学部附属病院 膠原病リウマチ内科 三枝 淳先生
三枝先生にしつもん
Q.医学の道を志したきっかけは?
A.文学者だった父に対して、私は子ども心に「お父さんは部屋にこもって本ばかり読んでいる。僕はもっと外に出て人と関わる仕事をしたいな」と思っていました。本格的に医学の道に進もうと決めたのは高校生の頃です。素敵なエピソードとかじゃなくてすみません(笑)。
Q.膠原病を専門にされたのはなぜですか?
A.医学部に入ってから、免疫学に興味を持ち、自己免疫疾患にはまだ解明されていないことがたくさんあると知りました。やりがいのある領域だと思い専門に選びました。
Q.三枝先生のストレス解消法は?
A.年に数えるほどですが、釣りに行きます。自分で釣った魚は自分で調理します。初夏のメクリアジの脂の乗り、生で食べるタコの食感など、いろいろな感動があります。
Q.お父様とは真逆のアウトドア派になったのですね。
A.いえ、たしかに高校生まではあまり本を読まなかったのですが、今では読書が一番の趣味です。仕事も診療以外の時間はデスクワークに追われる日々ですし、結局父と同じような感じになっております(笑)。