1月号
COVID-19と中和抗体|~神戸大学医学部附属病院の取り組み~
神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター
臨床ウイルス学分野 教授
森 康子
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がパンデミックとなり、世界中を恐怖に陥れ、そして世界を一変させた。人類が出会ったことのない未知の感染症の怖さを思い知ることとなった。しかし、人類の英知によって、その謎が徐々に明らかにされつつある。
コロナ禍でいろいろな科学用語が一般用語として使用されるようになった。中和抗体という用語もよく耳にするようになった。中和抗体とは、ウイルスが我々の体に侵入するのを防ぐ働きをする抗体である。すなわち、ウイルス感染を阻止できる抗体のことである。中和抗体は、ウイルスが宿主(人間)に感染後、ウイルスを異物と感知した宿主の体内で、異物に対する免疫が立ち上がり、ウイルスを退治するために産生される。
新型コロナウイルス感染者の血液中に含まれる中和抗体の量を測定したところ、重症であった感染者ほど、体の中で多くの中和抗体が産生されていることが明らかとなった。抗体価が高いことは、体の中で増えたウイルス量が多いことを示す。重症であった人ほど体内でウイルスが増えていると考えられるので、理に適っていると思われる。このウイルスに感染したことのない人の血液中には、当然ではあるが、中和抗体は全く存在しなかった。すなわち、このウイルスは人類にとって本当に未知のウイルスであったわけである。人類が遭遇したことのないウイルスであったために、免疫がなく、瞬時に世界中に広まったのだ。
一方、科学の進歩によって、ワクチンが物凄いスピードで開発された。だが、新たに開発されたmRNAワクチンは、発熱、頭痛、腕の痛みなど、副反応が強くでるという欠点がある。しかし、このワクチンは、確かに効いている。ワクチンによって、特に重症化が抑えられているのは間違いない。ワクチン接種した医療従事者におけるワクチン接種後の中和抗体の量を測定したところ、2回接種後2か月目では、中和抗体は一定量存在していたが、7か月目では数倍から数十倍程度、その量が落ちていた。すなわち、ワクチン接種後数か月で、中和抗体量は落ちてくると思われるので、現状では、追加接種がやはり必要だろう。だが、一方で、すべての人にこのワクチン接種ができるわけでもなく、副反応の少ないワクチン開発は重要である。
原稿を書いている今、新たな変異株も出現し、世界では、ウイルス感染が再拡大しているが、日本国内では収束傾向にある。だがウイルスは、変異を続け、まだ、存在している。ワクチンによって天然痘ウイルスが地球上から撲滅した。このウイルスは撲滅の道を選ぶのか、あるいは宿主(人間)との共存の道を選ぶのか。コロナとの闘いはしばらく続きそうである。しかし、多くを学んだ我々人類の聡明さでコロナに打ち勝ち、新たな未来到来も近いと信じている。
- 【特集】2022年 新型コロナウイルスをどう考えるか ~神戸大学医学部附属病院の取り組み~
- ● 眞庭 謙昌(病院長)
- ● 溝渕 知司(副病院長)
- ● 黒田 良祐(副病院長)
- ● 宮良 高維(感染制御部長)
- ● 大路 剛(感染症内科 准教授)
- ● 森 康子(臨床ウイルス学分野 教授)
- (順不同・敬称略)