1月号
新型コロナウイルス感染症の診療|~神戸大学医学部附属病院の取り組み~
神戸大学医学部附属病院 感染症内科/神戸大学都市安全研究センター 准教授
大路 剛
2020年から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、またたくまに関西地方を数度の波に渡り飲み込みました。その中で当院でも軽症から重症のCOVID-19患者を診療してきましたので紹介させていただきます。
COVID-19は感染して自然免疫で排除されなかった場合にウイルス性の肺炎を起こします。そしてすぐに良くならなかった場合、過剰な自己免疫による肺炎が続き重症化すると考えられています。従って、ウイルス増殖を抑え、過剰な自己免疫による炎症を抑えるという2つの治療戦略が基本になります。ウイルスの増殖を抑えるためには、ウイルスの複製を抑える抗ウイルス薬(レムデシビルなど)や抗体が武器になります。抗体にはワクチンによる自分自身の免疫と人工抗体があります。人工抗体として代表的なものはカシリビマブ/イムデビマブ合剤(いわゆる抗体カクテル療法)やソトロビマブがあり、感染した早期に使用することで重症化することを防ぐことができます。
過剰な自己免疫による炎症を抑えるためにはステロイド製剤(デキサメサゾンなど)やバリシチニブを使用します。また当院では肺の炎症とその後の線維化を抑えるトシリズマブを倫理委員会の許可のもと使用しています。
これらの戦略と同時に大切なのは様々な炎症でダメージを受けた肺のサポートです。COVID-19肺炎が重篤になると自分の肺だけで酸素を取り込むことができなくなり、鼻やマスクからの酸素投与や高流量鼻カニューレ (HFNC) 療法、悪化すれば人工呼吸器での呼吸管理が必要になります。また人工呼吸器管理が困難な状態では体外式膜型人工肺(Extracorporeal Membrane Oxygenation:ECMO)も使用します。当院では軽症から中等症の場合は感染症内科と各内科からの混成チームで診療し、重症化した場合は感染症内科と麻酔科による集中治療を行っています。少しでも肺をいたわっていくために軽症患者から重症患者まで悪化した肺を保護する体位を工夫してチームで取り組んできました。軽症者で入院した時点より最も酸素を取り込みやすい体位を判断し、腹ばいになる腹臥位だけでなく、座った姿勢も利用して過ごしてもらうようにしています。
ところで自然感染またはワクチンによって抗体ができた人に感染することができる新型コロナウイルスは免疫を回避する性質を持っていることになります。2021年12月現在、このような免疫を回避する性質を獲得した変異株の中でも特に感染力が強いものとしてβ株、Δ株、オミクロン株が世界で出現しています。このような変異株を作り出さないためには有効なワクチン接種に加え、できる限りの不織布マスク着用がカギになります。
変異株のニュースの一方、様々な期待できそうな薬剤も開発されてきています。例えば静脈注射でしか使用できないレムデシビルと異なり、内服の抗ウイルス剤であるモルヌピラビルやパクスロビドTMなどです。まだまだ予断は許しませんが、何とか次の波も力を合わせて超えていければと願っています。
- 【特集】2022年 新型コロナウイルスをどう考えるか ~神戸大学医学部附属病院の取り組み~
- ● 眞庭 謙昌(病院長)
- ● 溝渕 知司(副病院長)
- ● 黒田 良祐(副病院長)
- ● 宮良 高維(感染制御部長)
- ● 大路 剛(感染症内科 准教授)
- ● 森 康子(臨床ウイルス学分野 教授)
- (順不同・敬称略)