10月号
淡路屋が三ノ宮駅にオープン|駅弁と駅弁グッズのお店 駅弁市場で旅気分を
唯一無二の駅弁屋
7月29日、JR三ノ宮駅高架下フラワーロード沿いに駅弁ショップ、駅弁市場が開店し注目を集めている。
神戸の駅弁業者、淡路屋が運営。名物の「肉めし」や器がたこつぼ型の「ひっぱりだこ飯」、かわいらしい「パンダくろしお弁当」や子どもたち大興奮の「923形ドクターイエロー弁当」など同社の駅弁メニューが充実のラインナップで揃うだけでなく、「ひっぱりだこ飯」の蓋やカップ、おちょこといった自社グッズ、さらには富山「ますの寿司」の手ぬぐい、横川「峠の釜めし」のミニ容器に入った飴、大館「鶏めし」のTシャツ、小淵沢の駅弁で実際に使っているお米ほか、全国の日本鉄道構内営業中央会加入業者のユニークなアイテムがズラリと並ぶ。さらに今後、各地の駅弁を期間ごとリレー方式で販売する「駅弁駅伝」も開催予定だ。
仕事帰りやお出かけついでに立ち寄れる便利な立地も嬉しい。目印はフォトスポットにもオススメの大きな「駅弁」の看板だ。いまのところの予定では来年3月までの営業なので、思い立ったらすぐ行こう。
挑み続ける淡路屋
駅弁業界の風雲児として知られる淡路屋の起源は、大阪・曽根崎地にあった料亭「淡字」。なるほど、味のレベルが高いはずだ。明治末期に当時最先端の交通機関であった鉄道に着目し、阪鶴鉄道(現在の福知山線)の車内販売や池田駅(現在の川西池田駅)や生瀬駅で弁当の販売をはじめた。
戦後、国鉄からの依頼で神戸へ進出。前述の通り神戸駅は駅弁発祥の駅の1つだが、戦争で業者が被災し淡路屋に白羽の矢が立ったのだ。以降、地元食材を使って特色を出しつつヒットを連発。さらに、かつては紐を引っ張ると温まる駅弁や神戸ワインがセットになった駅弁の開発、最近は三宮一貫楼やサントリーなどさまざまなコラボレーション、自然解凍でおいしい冷凍駅弁の通販など既成概念をぶち壊して新たな境地を切り拓くだけでなく、浜坂駅の名物駅弁「かに寿司」の味を撤退した業者から継承、攻めるも守るも自由自在だ。
これからも淡路屋のアイデアと情熱、遊び心は無尽蔵。人を乗せないJR貨物の駅弁を発案しちゃったり、「ひっぱりだこめし」の容器でたこ漁にまでトライしちゃったり、その斜め上を行く発想に常人は唖然とするばかりだ。
文化を召しませ
そもそも兵庫や神戸は鉄道と食の分野で先駆的な役割を果たしてきた。駅弁の起源は諸説あるが、明治10年に神戸駅で販売されたのが最初という説もある。食堂車も神戸に本社があった山陽鉄道(後に国有化・現在の山陽本線)が明治32年に設置したのが最初とされる。つまり、駅弁を味わうことは、兵庫や神戸の地域文化を味わうことに等しいといっても過言ではない。
しかしいま、コロナ禍のダメージが大きい飲食と旅行が重なる立ち位置にある駅弁業界は窮地に立たされている。また、昨今は駅構内にコンビニが進出したことも駅弁業者を追い詰めている。食は旅の楽しみの大きく太い柱であり、駅弁は地域の食文化がギュッと詰まった玉手箱だ。その蓋を開けても浦島太郎のように老けたりはせず、旅先なら風情を輻輳させ、自宅なら旅の思い出や憧れをかき立てる。
それは、駅弁が文化だから成せる業。何気ない日常に駅弁をいただくことは胸躍るし、何よりも業者を救い文化を守ることに繋がる。自由気ままに旅することが難しい時代だからこそ、ぶらり駅弁市場へ立ち寄り、気軽に駅弁に舌鼓を打ち、ステイホームしながらしばし旅の気分を味わってはいかがだろう。そしてまたいつの日か、旅の空で駅弁を…。