2021年
3月号
3月号
神戸で始まって 神戸で終る ⑭
1995年1月17日の早朝、誰からか電話がかかってきた。「神戸が地震で大変なことになっている。すぐテレビを見て下さい」。テレビの画面には上空のヘリから撮った神戸の街のあちこちから火の手が上って煙がたちこめている、信じられないような悲しい光景が映し出されている。早速、妻の妹の家に妻が電話をするが、電話が不通になっていて通じない。
この時テレビで映された上空からの俯瞰風景と、そっくりの光景を数日前、新宿の高層ビルから東京の街を眺めている時に幻視したのを思い出した。その時、僕はこの東京の街が壊滅する幻影を想像した。その想像がそのままテレビの中の神戸とそっくりだったことに驚いた。
この日は、テレビに映される地震の惨状から眼が離されないままの一日だった。記憶の中の神戸の街がテレビに映される度に身を削られる想いがして、仕事が手につかない日が何日も続いた。
美術家 横尾 忠則
プロフィール
よこおただのり 美術家。 1936年兵庫県生まれ。ニューヨーク近代美術館、パリのカルティエ財団現代美術館など世界各国で個展を開催。旭日小綬章、朝日賞、高松宮殿下記念世界文化賞、小説「ぶるうらんど」で泉鏡花文学賞、「言葉を離れる」で講談社エッセイ賞受賞。愛知県美術館にて「GENKYO 横尾忠則」展を開催。(4月11日まで)
http://www.tadanoriyokoo.com