3月号
輝く女性Ⅲ 座談会
“自分のやりたいこと” “自分にできること”を考え、
“本当のしあわせ”を問う時代に
「輝く女性Ⅲ」初の座談会。今回はフェリシモのチョコレートバイヤーとして世界を飛び回っておられる木野内美里さんと、世界のオーガニックに精通し、日本の有機生産者の利益向上に奔走されている福井佑実子さんに登場いただきます。
“食”を通して、日本を外側からも見ておられるお二人に、ポストコロナ時代における日本の在り方について、お考えを伺いました。
三好万記子さんの進行で、未来に向けた明るいメッセージが行き交いました。
アツい想いを込めて新しい働き方を
三好 昨年は世界全体がまさに「コロナ危機」と言える状況に陥った一年でしたが、どんな時間を過ごしていましたか。
木野内 チョコレート専門の通販カタログの仕事で4月5月は海外出張に行くのがルーティーンでした。ところが全て取りやめに。「仕事がなくなる!」って焦りました。そこで、私にしかできない仕事って何だろう?と見つめ直し、やはり世界と日本をチョコレートでつなぐことがミッションであると思ったんです。物流が少しずつ動き出したタイミングで、過去にお取引した世界のショコラティエに連絡をとり、「ハートのチョコレートをつくって日本に送ってください」とお願いしてみました。そうすると、世界中から色々なハートのチョコレートが続々と集まって。「皆、元気なんだ…」と嬉しくて泣きそうになりました。私からのメールで俄然やる気が出たと喜んでくださる方もいました。だから今年の『幸福のチョコレート』は、特別な思いがいっぱい詰まったカタログとなりました。
世界のチョコレートを港町・神戸に集めて日本中に送りだす、この仕事に誇りをもって、これからも真っ向勝負でやっていくぞ!と腹をくくった一年。初心に戻ったというか、いい仕事をさせてもらっているなぁと実感しました(笑)。
三好 忙しくなりすぎて、仕事をこなすだけの毎日では気が付かなかったかもしれないですし、時間ができて、「私の仕事って何だろう?」と考える余裕が持てたことは大きいですね。仕事のやり方としては何か変化はありましたか?
木野内 商談はeメールやテレビ会議で行いました。コロナが起きなければ、トライしなかった新しいビジネススタイルです。キプロス島とか今まで行けなかった国の人とも深くコミュニケーションがとれるようになるなど、世界中の人が短期間で新しい方法を模索して実用化する。人間の順応力ってすごいと思いましたね。
福井 私の仕事も、本来ならばリアルに開催される国際会議やフォーラムを、オンラインで実施する形が多かったです。オーガニックセクターの国連と言われるIFOAM(国際有機農業運動連盟)のアジア支部が主催する「オーガニックリーダー研修」もオンラインで開催され、私は2020年の日本人唯一のメンバーとして参加しました。この研修の参加を得るために必死の思いで頑張ってきたので、開催中止とならず本当に良かったです。研修期間の一週間は非常に厳しいものでしたが、アジア各国の活発なオーガニック推進の動きをリアルに感じることができ、日本を外から客観視することができました。研修後は参加者の代表スピーチも担当することに。英語力のない私でいいの?(笑)と思いながら、精いっぱいスピーチしました。
三好 きっと福井さんの熱意が評価され、代表に抜擢されたんですね。重要なのは英語力より熱意なんだと思います。
木野内 人の熱意ってすごいですよね。例えば、フェリシモでフランスのチョコレートを買われた日本の方が「おいしかった!」とSNSにあげると、現地のショコラティエが「自分の作ったチョコレートについて書いてある!」と発見して、全文をフランス語に翻訳するんです。そして「ありがとう!」のメッセージを日本に送ってくる。今度は受け取った日本人がフランス語に翻訳して…そんな交流ができています。想いの強さや熱意が、そのアクションを起こしているんです。
三好 それって作り手に、本当の美味しさや本当のオーガニックに対する想いがあるからこそでしょうね。人と会わないことや、現地に行かなくなった代わりに、数字などでは表せない、もっと本質の部分にスポットが当てられ、商品を求める側の感性も敏感になっているように思います。
やり続けたいことを自分で考えて選択
三好 「オーガニックは生き方」とおっしゃっている福井さんですが、昨年、神戸市から念願の丹波市に引越しされましたね。新しい暮らしはどうですか。
福井 丹波には毎月のように通っていたのですが、通うのと住むのではやはり全然違いますね。地元の採れたて有機野菜をたっぷり食べる食生活になったからか、体が軽くなりました(笑)。コロナの影響による業態の変化で、中間業者さんも有機野菜を取り扱う新事業をつくるようになり、一段と忙しくなった農家さんの出荷のヘルプをしたり、経営のことや新商品の相談にのったりして、そのお礼に野菜や卵、お米、日本酒などをいただくんです。食べ切れない分を人にお裾分けするとまた違うものをいただいて…と物々交換する農的な暮らしを満喫しています。
野菜を育てたり、庭の井戸水を汲んだり、オフグリッドを採用し、電気もつくっています。といっても、スタイルは神戸で暮らしていたときと全く変わらないですよ。トイレはウォシュレットだし、お風呂も自動お湯張り機能付き。背景がオフグリッドというだけです。ただ残念ながらそれらの再エネ技術はすべて海外製で、日本はまだその分野に関しては遅れをとっている感が否めないですね。
三好 フランスでは、私が暮らしていた頃にはすでにオーガニックを意味する「Bio」という商品が暮らしのなかに溶け込んでいました。欧州は石畳の街並みなど旧きよきものを残しつつ、最先端のテクノロジーや考え方も取り入れて、バランスがとれている。日本でもオーガニックな考え方が浸透してきたものの、プラスチックごみを出さないことがSDGsと端的に捉える人もいて。それはそれで間違ってはいないものの、ちょっとまだ感覚がズレていたり、偏ったりしている気がします。
福井 ヨーロッパの人たちは自分達の子どもや孫の世代に残したい持続可能な豊かな暮らしは何だろうと考え、暮らしを取捨選択していますね。持続可能な観点から話しあって、同じ価値観でつながっていく。共有された価値観が世代を超えて子どもたちに受け継がれていけば、その価値観の持続可能性は高まります。だからSDGsもシンプルに自分がずっと楽しみたい暮らしについて考えみるとわかりやすいですよ。
有機野菜は美味しいから、一生食べ続けたい。ならば有機農家さんに作り続けてもらわないといけない、そのためにどうすればいいのか。そこに排除される人やモノ、仕組があると持続可能ではないんです。有機野菜は美味しいけれど高い、と排除してしまうと、もうそこで終ってしまいます。野菜を買う際、何回かに一回有機野菜を選択するだけでもいい。できることから持続への価値観を育てていくことが大事だと思います。
木野内 海外のローカルでチョコレートづくりに励んでいる人も「自然エネルギーを使っています」という人が多いですよ。でもそれを主張するでも押し付けるでもなく、ナチュラルにさらっと実践している。「私はこう生きる」という一つの選択肢であり、その人の生き様なんですね。
今、世界のショコラティエは、ストレスの多い都心から蜘蛛の子を散らしたかのようにローカルに移り住むようになりました。ローカルでも材料は手に入るし、通販で売ることもできるからです。それならば自分や家族の幸せを一番に考えて生きていこうと。世界共通で同じ状況に陥ったことで、自分の生活を見つめ直し、自分と自分に近い大切な人の幸せを優先する、そんな流れが世界的に来ているように感じます。
福井 確かに、選択の基準が「自分が心地いいか、自分が幸せかどうか」に寄ってきた気がします。心地良さや幸せは人それぞれ違うから、それぞれが選んでいけばいいと思いますね。白黒はっきりさせるのではなく、「ま、いっか!」という、おおらかさをもって暮らしていくことも長く続けていくコツだと思います。
初心に帰る。そして確信する
三好 ぼんやりしていたことが、時間ができたことで浮彫りになった、なんてことはありませんか。私は自分の仕事について見つめ直す機会となり、私の居場所はここだ、と改めて思いました。直営カフェレストラン「78Fuzuki Yaoka」をオープンしたのですが、料理教室やケータリングのお客様とはまた違う方たちとの出会いが、とても楽しいんです。お店を持つことで「美味しい」と言ってもらえる幸せに気づき、自分の好きなこと、やりたいこと、そしてできることが、よりくっきりと見えてきました。推奨してきた有機食材を、目の前でより多くの方に召し上がっていただけるようになったこともプラスの変化です。
福井 オーガニックもSDGsが追い風となって注目度が上がってきていますし、これまでなかなかお話できなかった方とオンラインを通してつながる体制も整ってきました。時間ができたので考える余裕ができ、「オーガニックは持続可能な社会のために必要な生き方」という自分の考え方は間違っていない、と、自分の仕事の価値が再確認できてよかったと思います。
木野内 私も新しい体験って大事!と感じる毎日を過ごしています。実はフェリシモが社屋を引っ越しして、チョコレートミュージアムを作っているんです。今秋のオープンに向け、現在準備中です。チョコレートをテーマにしたアート作品や、何万個という皆の思い出が詰まったパッケージの展示など、チョコレートの可能性を拓き、神戸から新しい歴史をつくっていけるような新しいカタチのミュージアムをめざしています。臨床美術のワークショップで、神戸に訪れた人たちと絵を描くこともやってみたいし、幸せな野望が果てしなく拡がり中(笑)!
福井 私は丹波の「ORGANIC HOUSE」を都市と農村を結ぶ拠点にしていきたい。兵庫県は有機農業の発祥地であり、消費者と農家さんがつながって契約する「産消提携(テイケイ)」は、丹波を産地、阪神間を消費地として生まれ、世界に派生していきました。この素晴らしい文化が次世代に継承されていないのですが、新しい時代、新しい世代のシステムとしてもう一度、復活させていきたいと考えています。“幸せ”を拡大していけたらいいですね。
三好 「自分ができること」×「自分がやりたいこと」をかけあわせれば、自分はもちろん、神戸の幸せ、世界の皆の幸せにもつながっていくんですよね。未来への期待の光が見えてきました!
取材は三好さんが昨年オープンした芦屋のレストランカフェ『78Fuzuki Yaoka』にて。
株式会社フェリシモ
チョコレートバイヤー
木野内美里さん
通信販売会社「フェリシモ」の“チョコレートバイヤーみり”としてチョコレート企画を担当。約500 ブランドのチョコレートを輸入販売した実績を持ち、その内244ブランド以上が日本初上陸。また得意とするアートの世界でアートセラピー臨床美術士として活動中。
株式会社プラスリジョン
代表取締役
福井佑実子さん
民間企業、大学職員を経てオーガニックのお弁当デリバリー事業を手がけた後、2008年に同社を設立。オーガニックの本質を広めることを使命に、6次産業化プランナーとして有機農産物加工と農福連携を専門領域として活動している。
株式会社ターブルドール 代表取締役
三好万記子さん
神戸女学院大学卒。パリに3年間滞在中、フランス料理を学ぶ。ル・コルドン・ブルーにて料理ディプロマ、リッツ・エスコフィエにてお菓子ディプロマを修得。帰国後、西宮市・夙川にて料理サロン「Table d’or」主宰。ケータリングではディスプレイを含むトータルコーディネートに定評あり。2020年9月、芦屋市にレストランカフェ「78Fuzuki Yaoka」をオープン。美味しく身体に優しく創造的なメニューを次々と考案し、開業直後から予約が埋まる。企業へのレシピ提供など、「食」を幅広くプロデュース。
https://78fuzuki.com/