3月号
縁の下の力持ち 第25回 神戸大学医学部附属病院 成人先天性心疾患センター
患者さんの健康で充実した人生を支え続ける力持ち
赤ちゃんのときに心臓手術を受けた患者さんは一生涯心臓のケアが必要です。大人になった患者さんを小児科から引き継ぎ、多くの診療科と連携しながら健康で充実した人生に寄り添い続けるのが「成人先天性心疾患センター」です。
―先天性心疾患とは。
胎児はお母さんのお腹の中で、魚類から人類に至る人間の進化の過程を辿るように作られます。臓器の中でも最も複雑な構造と機能を持つといえる心臓は何らかの理由でその過程でミスが生じやすく、赤ちゃんの約1パーセントが先天性心疾患を持って生まれてきます。
―心臓がどういう状態なのでしょうか。治療はできるのですか。
心臓壁に穴が開いている、弁が動きにくい、血液が逆流する、心房・心室が4つそろっていないなど、ごく軽症から重症なケースまで状態は多岐にわたっています。お母さんのお腹の中にいるときからエコーで観察し、手術が必要な異常が認められたら生まれてすぐ処置をします。
―手術をすると元気になるのですね。ではなぜ、成人にも先天性心疾患があるのですか。
普通に日常生活が送れるほど元気になります。ところが幼少期に受ける手術は人工弁や人工血管をはじめ、ほぼ全ての場合、人工物を使います。それが体の組織と同じ働きをし続けてくれるのですが、20年、30年とたつうちに経年劣化します。機能不全を起こし、取り替える必要が出てくるのです。また手術の際の傷の影響で不整脈が出たり、心不全を起こしたり、やはり自然に作られた完璧な心臓とは違いさまざまなリスクがあり、生涯にわたってメンテナンスが必要です。
―そのためにこのセンターが開設されたのですね。
患者さんは何歳になっても、手術を受けた小児科の先生に診てもらうのが一般的です。近隣では、兵庫県立こども病院が多くの患者さんを受け入れています。しかし成長して大人になるとその他の臓器の病気や、糖尿病や高血圧など生活習慣病をはじめとする特有の病気が出始めます。小児科の先生と各診療科の先生方が連携しながら治療をするのですが、スムーズに移行できないケースも多いのが現状で、また中には、手術を受けて元気になり小児科を卒業するころには、「もう必要ない」と心臓のケアをやめてしまう患者さんも多くおられます。そこで2012年、県立子ども病院から依頼を受け、翌年、当センター開設に至りました。
―たくさんの診療科がある大学病院だからできるのですね。
そうですね。私たち循環器内科と小児科の医師が心臓を観察するのと同時に、当センターが窓口となり患者さん一人一人に必要な診療科との橋渡し的な役割、マネジメントのような役目を担っています。
―産婦人科と連携した心疾患を持つ患者さんの出産サポートもその一つなのですね。
患者さんの中には結婚して妊娠、出産の年齢に達した女性も多いのですが、出産は赤ちゃんのために心臓がたくさん動かなくてはいけません。そのため母体へのリスクが高く、産婦人科の先生方は、重い心臓病を持つ患者さんの出産は赤ちゃんだけでなく母体への安全も、細心の注意を払いながら支えてきました。そこで、私たちが入りチームでサポートすることで、患者さんに出産までの時間をできるだけ安心して過ごしていただけるのではないかと考え、診察や薬の処方をしながら産婦人科病棟へ足しげく通い、先生方とも顔を合わせて、協力体制を作ってきました。
―小児科から引き継いだ患者さんに接するに当たって心掛けておられることは。
先天性心疾患の患者さんは幼い時に手術を受け、その後は病気を意識することなく、成長していく方がほとんどです。そのため、治療方針や手術についての話は、変わらず、小児科の先生と親御さんで進めてしまい、本人はどこか他人事のように見えてしまうことがあります。どんな病気もそうですが、患者さんには、「自分の病気は自分で責任を持って管理しなくてはいけない」と伝え、一緒に病気に向き合っていきたいと日々思っています。