10月号
令和2年度 「神戸在宅医療塾」 特別講座 新型コロナウイルスと在宅医療の現場で闘うために
8月27日、神戸市医師会館にて令和2年度「神戸在宅医療塾」特別講座が開催され、在宅医療に関わるさまざまな関係者や学生などが集った。
「神戸在宅医療塾」は神戸市医師会地域包括ケア委員会と神戸大学医学部の合同主催で、特別講座は毎年開催されている。
今回新型コロナウイルス感染症がテーマで、感染予防対策として会場を3階と4階の2つに拡大しソーシャルディスタンスを確保、検温と手指消毒もおこない、参加者たちは登壇者以外マスクの着用を徹底した。
置塩隆神戸市医師会会長のあいさつの後、村岡章弘神戸市医師会副会長が座長を務めて基調講演が行なわれ、神戸大学医学部感染制御部の宮良高維先生が「在宅医療・介護施設における新型コロナウイルス感染症対策」と題し新型コロナウイルスの特徴や有効的な感染防止対策などについて講演した。宮良先生は2003年のSARS流行の際も最前線に立ち、今回のコロナ禍でも県の感染症対策協議会の有識者委員も務め感染症の専門家。ウイルスの潜伏期間やマスクの効果、手指消毒の具体的方法や在宅医療現場での防護などについて、具体的事例や最新の情報を交えつつ「感染の入口は目・鼻・口。気流と換気に加え、時間や距離、遮へいなどの環境整備も大切」と語り、感染対策ルールの単純化や視覚化の重要性にも言及、参加者たちはひときわ熱心に耳を傾けた。
続いて宮良先生がコメンテーターとなり、4名のパネリストを迎えて座談会がおこなわれた。まずは在宅診療を積極的におこなう開業医の立場から、関本クリニック院長の関本雅子先生がウイルス対策の苦労や難しさを語った。続いて訪問看護ステーションわたぼうしの看護師、船越政江氏が訪問看護現場の実情を訴え、混乱期の資材確保の困難さ、職員やその家族の苦悩にふれた。訪問看護リハビリステーションすまぁとの管理者、冨嵜ゆかり氏は、接触機会の多いリハビリという特性から感染危険性の高さのみならず、利用者減少による経営打撃という難しい問題を訴えた。
最後に医療法人社団緑心会グリーンアルス伊丹の事務長、塩田眞一郎氏が、実際に感染者が発生した状況や事態の経緯、肺炎の脅威、経済的脅威、風評被害や差別の脅威という3つの脅威との闘いについてプレゼンした。特に風評被害は凄まじく、不完全な情報がメディアに流されたり、市の広報で配慮に欠けた記事が出たりしたことでパニックが巻き起こり、本来の敵であるウイルスではなく事業所や人をターゲットにした攻撃や差別が発生、落書きといった犯罪行為や部外者の執拗なクレームといった妨害行為を受けたという「現実」に、参加者たちはつばを飲み込んで聴き入った。一方で、利用者やその家族からの励ましや、見知らぬ人からの援助などが心強かったという。
討論では多職種での情報共有体制や管理体制、患者や利用者との接触方法、スタッフのストレス対策などが話し合われ、質疑応答では風評被害対策もテーマに挙がった。
「在宅医療塾」は今後も定期的に開催される予定。