2020年
10月号
10月号
Tadanori Yokoo|神戸で始まって 神戸で終る ⑨
想像してなかったというか、考えもしてなかった「彼女」が突然、僕の生活の中に闖入してきた。岡井さんの紹介で谷さんという神戸新聞会館に勤める女性との出会いは、正に電光石火であった。
阪急電車の三宮駅の近くに琥珀と言う喫茶店があった。新聞会館の中にも喫茶店は二軒あったけれども、二人の関係は誰にも知られたくなかったので外部の店を選んだ。一度も行ったことのない喫茶店だったが、幸いにも二階だったので通りからは気づかれない。まだ二回目だというのに、大きな秘密を持ったような気がした。ここで初めて会った時に話したことは今でもよく覚えている。
どうして、こんな話をしたのか、わからないが、中学生の頃、将来自分が住んでみたい家の模型を紙で作る課題があって、その時に作った模型の話を彼女にした。そんな話を聞いていた彼女はポツンと言った。
美術家 横尾 忠則
プロフィール
よこおただのり 美術家。 1936年兵庫県生まれ。ニューヨーク近代美術館、パリのカルティエ財団現代美術館など世界各国で個展を開催。旭日小綬章、朝日賞、高松宮殿下記念世界文化賞、小説「ぶるうらんど」で泉鏡花文学賞、「言葉を離れる」で講談社エッセイ賞受賞。現在、横尾忠則現代美術館にて「横尾忠則の緊急事態宣言」を9月19日(土)〜12月20日(日)まで開催予定。
http://www.tadanoriyokoo.com