2020年
5月号

兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第一〇七回

カテゴリ:医療関係

川西市民医療フォーラム
「目指せ!健康長寿のまち
~住んでいるだけで長生きできるまちづくり~」について

─川西市の市民医療フォーラムは毎年開催されていますね。
長谷部 川西市医師会では県内各市町の医師会に先駆けて、平成15年から市民医療フォーラムを開催しています。これまでも終末期医療、医療介護、災害医療、救急医療、検診、医療制度など多岐にわたるテーマを採り上げてきました。

─昨年のフォーラムのテーマは何ですか。
長谷部 第17回となる昨年は「目指せ!健康長寿のまち~住んでいるだけで長生きできるまちづくり~」をテーマに、11月9日に川西市みつなかホールで開催しました。住み慣れた街で健やかに暮らすことは誰しもが望むことですが、超高齢化社会のなかで健康でいきいきと過ごすためにどのようなまちづくりを目指すべきなのかを、市民のみなさまと一緒に考えました。

─フォーラムはどのように進行しましたか。
長谷部 まず、NHKスペシャルにも出演され健康なまちづくりを提唱された、千葉大学予防医学センター教授の近藤克則先生にご講演いただきました。近藤先生は人生100年時代が到来したものの、90歳を超えると約7割が認知症になる現実を提示した上で、認知症をいかに減らすかが問題と指摘されました。これまでは、認知症を減らすためには食事や運動量が重要視されていましたが、ビッグデータ解析で意外なことがわかったそうなんです。

─それはどのようなことですか。
長谷部 健康的な食事や運動ももちろん大切ですが、本や雑誌を読むことも認知症を防ぐ効果があるそうです。このほか一人暮らしの女性の方が長生きできること、地域の治安が保障されているところは長生きに良いこともデータでわかってきたというのも興味深いですね。公園の数が多かったり、歩道が整備されていたりするのも認知症リスクの軽減に繋がっているというデータもあり、歩く環境が整っていると歩く人が増え、その結果認知症の予防に結び着いていることがうかがえ、まちづくりのヒントになります。木を見るより森を見る、つまり一人ひとりではなく人間全体を俯瞰することによって、社会環境の質が健康に大きく関係するのだと改めてわかりました。

─まちづくりで社会環境を整えることが大切なのですね。
長谷部 それだけではなく、個人が社会と関わることも重要だと近藤先生はおっしゃっていました。例えばスポーツをするにしても、1人でするよりみんなでする方が楽しいし、スポーツによりコミュニケーションが生まれ、円滑な人間関係が育まれます。また、社会参加で役割を担ったり、ボランティアに参加したりすることも大切です。人は支え合い共生することで生きているのですから、他人のために奉仕することが結局自分のためになるのです。社会参加と認知症の関係はデータでも明らかになっています。実際に社会と多様な繋がりのある人は認知症発症リスクが46%も低いんです。

第17回川西市民医療フォーラムは、2019年11月、“超高齢社会の中で健康に過ごすための
まちづくり”をテーマに、川西市みつなかホールで開催された

─パネルディスカッションはどのような内容でしたか。
長谷部 4名のパネリストの発表を踏まえて議論を深めました。川西市医師会メディカルセンター所長の篠村恭久さんからは川西市と猪名川町の健康診査やがん検診についてお話しいただき、川西市・猪名川町ではいずれも行政と医師会が早くから協力して生活習慣病やがんの早期発見と予防に取り組んで検診受診率が高く、心疾患・脳血管疾患・がんの死亡率が全国や兵庫県の平均よりも低いという成果が出ているとのことです。

─川西市では行政も健康づくりに積極的ですよね。
長谷部 川西市ではウォーキングや運動イベントへの参加で特産品などとの引き換え可能ポイントが貯まる「健幸マイレージ」をおこなっていますが、川西市健康増進部長の荒崎成治さんにはマイレージへの参加促進やより出かけたくなる気分にさせるまちづくりなどについて具体的にご紹介いただきました。

─地域で高齢者を支えている事例のお話はありましたか。
長谷部 川西市社会福祉協議会副会長の岩井健さんからは、川西市北部の大和地区での取り組みをご報告いただきました。しっかりとしたコミュニティ形成と活発な活動が高齢者の元気を支えている一方で、担い手不足や活動拠点の整備などの課題も浮かび上がってきているそうです。また、地域包括ケアについては、川西市中央地域包括支援センター主任ケアマネージャーの森上淑美さんにお話しいただき、認知症予防のための「脳活」や高齢者・家族・医療・福祉を結ぶ「つながりノート」などユニークな取り組みもご紹介いただきました。ちなみにこの「つながりノート」は第9回市民フォーラムをきっかけにできたもので、認知症グローバルサミットでも注目されました。

─川西市や猪名川町では「長生きできるまちづくり」が実践されているんですね。
長谷部 近藤先生は、一人ひとりが人生をいきいきと生きることが大切で、そのためにも現状の課題を共有し、高齢者、介護者、ボランティア、保険財政の「四方よし」の地域づくりを目指すべきとおっしゃっていました。今後も社会環境の質を向上させ、社会参加しやすい環境づくりを重視し、スポーツやボランティアなどみんなでいきいきと活動できる街にしていきたいですね。

川西市における、生活習慣病やがんの早期発見・予防の取り組みや健康づくり、地域で高齢者を支える事例などについて、
議論が深められた

川西市医師会理事
長谷部クリニック院長
長谷部 信成 先生

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