5月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第九十五回
明石市民フォーラム
「どうする?あなたの老後~認知症になったら~PART1」について
明石市医師会理事
石田内科循環器科院長
石田 義裕 先生
─昨年の明石市民フォーラムはどのようなテーマでしたか。
石田 第21回を迎えた昨年は10月20日に明石市立市民会館で、「どうする?あなたの老後 ~認知症になったら~PART1」をテーマに認知症の中でも社会問題になっている徘徊と運転免許の返納の問題について考えました。
─どのような内容でしたか。
石田 第1部では紙芝居で2つの具体例を挙げました。1つはおばあさんが肺炎で入院したら認知症がひどくなり、退院して帰宅した後に徘徊するというケースです。もう1つは認知症の診断を受けた後も運転し続け事故死したケースです。現在よくみられるこれらの事例で家族、医療、介護、地域の人たち、行政の連携でどう対応していくかを問題提起しました。第2部では第1部の紙芝居を受けて、認知症の専門医であるトパーズクリニック西新町院長の池上昇司先生が「徘徊と免許返納の問題点」と題し講演しました。第3部では池上先生のほかケアマネージャーの永坂美晴さん、地域総合支援センターの赤松みどりさん、兵庫県警交通企画課の野上浩二さんを交え、私が座長を務めシンポジウムをおこない、第4部に質疑応答の時間を設けました。
─池上先生の講演はどのようなお話でしたか。
石田 まず認知症の種類や症状についての解説があり、その後、徘徊と免許返納について、対策や現状などのお話がありました。
─認知症の症状について教えてください。
石田 認知症の症状は大きく中核症状と周辺症状に分かれます(次ページ図1)が、周辺症状は今回のテーマの徘徊など行動にあらわれる症状です。中核症状で治まっていればそう困らないのですが、周辺症状が出てくるといろいろと問題になってきます。
─徘徊はなぜおきるのですか。
石田 徘徊とはどこともなく歩き回ることですが、場所の認識ができなくなるため周辺症状としておきてきます。はたからは意味なくうろついているように見えますが、本人はなにかの目的やきっかけがあります。
─防止するためにはどうしたらいいのでしょうか。
石田 徘徊は事故やケガに巻き込まれる危険があるので防ぎたいですが、基本的に薬で治すことができません。だからといって家に閉じ込めると転倒によるケガや夏期の熱中症、冬期の低体温症の危険があり、そして何より本人の精神状態が悪化し虐待になりかねません。防止は難しいですが、徘徊する先は本人に馴染みがあるところが多く知らないところにはあまり行かないので、近所の人たちに知ってもらうこともひとつの対策ですし、携帯電話などのGPS機能も役に立ちます。デイサービスなどの介護保険サービスを活用することも、家族の介護疲れの解消に良いでしょう。まずは窓口に相談するのが良いと思います。
─明石市にはどんな相談窓口がありますか。
石田 市内6か所の地域総合支援センターに相談窓口を設置しているほか、認知症相談の専用電話(078─926─2200)を開設しており、状況に応じて居場所探索用端末機の貸与などの支援が受けられます。また、要援護者見守りSOSネットワークへ登録すれば、万一高齢者等が行方不明になった際に、写真情報を添付したメール等を協力者へ一斉送信し早期発見の一助となります。平成29年度で利用登録者136名に対し、一般協力者187名、特定協力者355名となっております。
─認知症患者の運転についてはどのような対策がありますか。
石田 2017年の道路交通法改正により、75歳以上の方は運転免許更新時や一定の交通違反を犯した場合に認知症検査を受けることとなり、最終的に医師により認知症の診断が提出されると行政処分により運転免許が取り消されます。しかし、実際に認知症患者による死亡事故もおきていますので、運転に不安を感じたら自主的に免許を返納することが望ましいです。兵庫県では自主返納者へ公共交通機関の割引などの特典が、明石市では65歳以上で自主返納すると本人のほか勧めた方にも図書カードの謹呈があります。
─しかし、車を運転できないと不便になりますよね。
石田 郊外など車が大切な移動手段である場合、免許返納により通院や買い物などが難しくなり、代替手段に乏しいため家族や近所の方などが支援しているのが現状です。家に閉じこもってしまうのではないかという心配もあり、特に男性は定年退職後に引きこもりになりがちです。ですから定年前から地域の行事への参加や趣味など生きがいを持ち、定年後の生き方に結びつけることが大切です。一方で、認知症は自覚がない場合もありますから、家族など周りの人たちが免許の返納を説得するのが大変だという実情もあります。
─認知症に対し、社会はどう取り組むべきなのでしょう。
石田 増え続けていく認知症は、もはや家族だけでは支えきれません。また、認知症になりたくてなった人はなく、だれでもかかる病気です。ですから認知症を正しく理解し、本人も家族も悩んでいることを理解した上で、社会事業として取り組み地域で支えていくことが大切だと思います。みなさんも近所の方と声を掛け合う、認知症サポーター養成講座に参加するなど、ぜひご協力をお願いします。それがやがて、自分や家族が認知症になった時でも支えてもらえる社会に結びつくのです。なお、今回のフォーラムの紙芝居、講演、シンポジウムの動画を明石市医師会のホームページで公開していますのでぜひご覧ください。
明石市医師会ホームページ(http://www.akashi.hyogo.med.or.jp/)