9月号
大江千里、横尾忠則の聖地でJAZZを奏でる
大江千里ミニライブ @Y+T MOCA
この夏、横尾忠則現代美術館で、ジャズピアニスト大江千里さんのライブが行われました。
昨年は『横尾忠則 原郷の森』展とのコラボ動画『横尾忠則×大江千里 Senri Meets Tadanori-forest in soul-』を発表。横尾作品の中に大江さんの奏でる音楽が溶け込むような神秘的なアートを生み出しました。
2度目となる今回は、お客様を招いてのコラボレーション。応募人数は、なんと定員の約8倍!そんな熱々のライブの後、熱々の大江さんにうかがいました。
WHEN LIFE WAS A PIZZA PARTY
Q.現在はNY在住、世界中で演奏されていますが、“美術館”での演奏は?
初めてです。横尾さんの“聖地”ですから演奏前は緊張したけど、お客さんと一緒にすごく楽しめたので今は興奮しています。楽しかった!
Q.大江さんにとって横尾忠則さんはどんな方ですか?
アートの神様です。絵と音楽、やってることは違うけど、若い頃から憧れています。横尾さんは若い頃から第一線で活躍していて、やる時はやる!行く時は行く!というところがカッコイイ。
横尾さんがピカソから影響を受けたように、僕もたくさんの大好きなアーティストの影響を受けて今があると思っています。
Q.お2人とも40代で進む道を変えました。似ているところもあるのでは?
いやいやいや、横尾さんとは並べない、僕はずっと、これからも背中を追う側です(笑)
今日も横尾さんに倣って、感性のままに怯まずに演奏しようと、ピアノに向かいました。
Q.今日の選曲のテーマは?
ピース全部の味が違う、ハッピーなピザ(笑)
1曲目は僕の夏曲『夏の決心』、次は、最寄駅が王子公園駅ってことで『いつか王子様が』。これ絶対に入れたかった(笑)。大好きなチェット・ベイカー『It Could Happen to You』は学生時代に使った譜面を見て弾きました。母校・関西学院大学って、創立時、道を挟んだ目の前にあったから。学生時代のこともちょっと思い出してね。最後は『WHEN LIFE WAS A PIZZA PARTY』!
体を揺らしたくなる曲もバラードも、JAZZのスタンダードも僕のオリジナル曲も、1曲1曲を味の違うピザみたいに楽しんでほしかった。ライブでは、お客さんにどう楽しんでもらおうか、ってことを考えます。人前で弾くってそういうことだと思うんです。
The Adventure of Uncle Senri
Q.47歳の時に日本での音楽活動を辞めて、JAZZを学ぶためにアメリカの大学へ。当時は驚きました。
シンガーソングライターという仕事を一生懸命にやっていたし、大きなホールで歌ったり、テレビ番組に呼んでもらったり、たくさんのファンに応援してもらって充実していたんです。でも、JAZZと両立はできないのはわかっていたから。
「これまでの音楽人生を捨てていくのか」ということをたくさん言われたけれど、僕の気持ちはそうじゃなくて、1番輝いているものを1個とっただけ。10代の頃に憧れた音楽に、あの頃のエネルギーを全部注ごうと思ったんです。
“千里叔父さんの冒険”です(笑)
Q.冒険はいかがでしたか?
生活そのものが冒険で、日本でポップスを歌っていたのも自分、NYで必死に学んでいるのも自分、この冒険を自分のJAZZに詰め込んでしまおうと、自分にしかできないJAZZを探して、未来に向かっていました。
街のあちこちでJAZZを聴くことができて、JAZZが好きな人も、たまたま通りかかった人も一緒に楽しんでいる。音楽へのリスペクトがものすごくある街だから、僕も真摯に向き合うことができたんだと思います。
Q.これから演奏してみたい場所は?
道路の真ん中とか砂浜、すーごく高い所とか。街のノイズなんかも巻き込んで、演奏できたらおもしろい。JAZZは本来、即興的な音楽なので、どんなところでもできます。これからも冒険、JAZZ人生に乾杯です!
大江千里(おおえ・せんり)
1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー。『十人十色』『格好悪いふられ方』『Rain』『ありがとう』などがヒット。2008年、ジャズピアニストを目指し渡米、NYのTHE NEW SCHOOL FOR JAZZ AND CONTEMPORARY MUSICに入学。2012年、大学卒業と同時に自身のレーベル「PND Records」を設立。同年1stアルバム『Boys Mature Slow』でデビュー。2018年にはデビュー35周年記念として『Boys & Girls』を発売。2019年に『Hmmm』をトリオで制作。2022年、全米1の音楽フェステイバル「Summerfest2022」にトリオで参加。2023年40周年記念アルバム『Class of‘88』をリリース。「JAZZ WEEK」で24位(2023年8月28日付)を記録。2023年、映像作品「横尾忠則×大江千里 Senri Meets Tadanori -forest in soul-」を発表。NYブルックリン在住。
text.田中奈都子