07.11
WEB版 スペシャル・インタビュー|
ミュージカル女優 森公美子さん
ブロードウェイ・ミュージカル
『天使にラブ・ソングを… (シスター・アクト)』
大阪公演アンバサダーに就任
唯一無二の力強いハイトーンの歌声が魅力のミュージカル女優、森公美子が、7月24日に大阪・オリックス劇場で開幕するブロードウェイ・ミュージカル『天使にラブ・ソングを… (シスター・アクト)』のアンバサダーに就任した。1992年公開の米女優、ウーピー・ゴールドバーグ主演映画『Sister Act(シスター・アクト)』(邦題『天使にラブ・ソングを…』)が原作。今公演はゴールドバーグ自らプロデューサーを務めている。「修道院のシスターたちが歌で変わっていく姿がとても感動的。人の心を震わせる歌の魅力を劇場で直に感じてほしい」と森は呼びかける。
7年ぶりの期待
ブロードウェイ版の日本公演は7年ぶり。
「4年前に予定されていた来日公演がコロナ禍、中止になってしまったので、久々の日本公演。それだけに早く日本のミュージカルファンに観てほしくて…」
アンバサダーの森自身、『天使に―』は映画、ミュージカルともに強い思い入れがあるといい、自然と言葉に力がこもる。
「ロバート・ヨハンソンの新たな演出で、舞台のセットも一新され、これまでとは、また違った魅力にあふれています。特に一つ一つのセットが、より豪華になっていて見応え十分」と、一足早く韓国での公演を観劇してきた森は、臨場感たっぷりに解説してくれた。
舞台は米フィラデルフィア。スターを夢見るクラブ歌手、デロリスは殺人事件を目撃したことから、ギャングに命を狙われ、修道院に逃げ込むが…。
『美女と野獣』や『アラジン』など大ヒットミュージカルの音楽を手掛けてきた作曲家、アラン・メンケンが楽曲を担当。
「最初は歌が下手だったシスターたちが、デロリスの影響で歌うことの楽しさを知り、どんどん上手くなっていく様子を観てほしい。もちろん、俳優たちは演技でわざと下手に歌っているのですが…」
ブロードウェイ版の来日公演は、これまで2015年と2017年の2回行われている。片や日本人俳優による日本版が初めて上演されたのは今から10年前の2014年。
映画でゴールドバーグが演じたヒロイン、デロリス役として、この日本版初演に抜擢されたのが森久美子だった。
高難易度の歌と踊り
「映画館で観たのは、もう32年前なんですね」と、記憶をたどるように森が語る。
「デロリス自身が変わり、彼女の歌の指導でシスターたちの人生も変わり、舞台が力強く変化していく。神のために歌っていた讃美歌が、もっと多くの人々に向けて伝える歌へと広がっていく…。歌の素晴らしさ、歌が持つ力を改めて知らされたようで、強く心を打たれたことを、今でも鮮明に覚えています。まさか、自分がミュージカルの舞台で、このデロリスを演じることになるなんて、当時は想像もできませんでした」
デロリスを演じるために、シスターの生活を理解しようと「舞台の共演者たちと一緒に修道院にも通いました」と話す。
「ダンスのシーンで、机の上に座る場面を観て、『シスターはそんな行儀の悪いことはしません!』と指導者のシスターに注意されて…。ミュージカルなのだからと、机を動かす踊りに変えて許してもらいました」と苦笑しながら振り返る。
初演以来、これまで日本版で5度出演。その5度目の日本ツアーを昨年12月に終えたばかりだ。
「高音域で歌い上げる曲が続き、足を高く上げる激しいダンスシーンも多い。ロングラン公演は体力的にも大変で、実は昨年の公演の千秋楽、〝今年が最後〟という覚悟で舞台あいさつしたんですよ」
さらに、遡ること5年前。2019年の3度目の公演の前。この年に還暦を迎えた森は、「65歳までデロリスを続けられれば」とも公言していた。
昨年12月24日の日本ツアーの千秋楽。公演が終わった静岡のホールのステージの上で、涙を流しながらあいさつする森に向かって、観客席から「まだ、やめないで!」という悲痛な叫び声が響いた。その声は館内中へと広がり「温かい声援に、また涙が出てきて…」と森は吐露する。
「そろそろ、この役を後輩に譲った方がいいのかな…」という迷いや葛藤があるのだという。
だが、ミュージカルファンにとって俳優の年齢などはまったく関係ないのだと、千秋楽のスタンディングオベーションが教えてくれた。
〝森公美子にしか出せない歌声〟を聞くために全国から多くのファンが会場へ足を運んでくれているということも…。
歌で伝わる夢…
日本版だけでなく、「実は米ブロードウェイ公演に〝飛び入り参加〟し、一緒に歌わせてもらったことがあるんですよ」と興味深いエピソードを披露してくれた。
〝本場〟での反応が気になるが…。
日本人女性シンガーの底力に本場のファンは驚愕。「あなたの歌声が一番力強かった」と賞賛され、「ミュージカルを続けてきて本当によかった」と、ここでも感動し、号泣したという。
「夢はいつか必ず叶うもの…。いつまでも夢を持って生きたい。そう思って歌い続けてきました」
幼い頃からオペラ歌手を目指し、音楽大学で学び、イタリアへも留学した。
「自分の歌に自信を無くし、挫折したこともあります」と打ち明ける。
落ち込んだ頃、英国のロンドンで暮らす叔母の家を訪れた。
このときに観たミュージカル『マイ・フェア・レディ』が森の心に変化を与えた。
「私は歌うことに苦しみ悩んでいたのに、ステージの上では、みんなあんなに楽しそうに踊って歌っている。ミュージカル女優になりたい…」
そう強く夢を描き直した瞬間だった。
1982年、念願のオペラ歌手としてデビュー。その翌年、ミュージカル女優としてデビューを果たす。
そして日本版『マイ・フェア・レディ』のステージにも立ち、歌って踊った…。「夢を抱けば、いつか必ず、それは叶うのだと知りました」
歌い続けることで、ひとつずつ夢を実現させてきた森が確信を持って、そう語る。
夢を叶える努力は、65歳を迎える今も変わらず継続している。
「実は昨年、長年ずっとやりたかったジャズのコンサートを初めて開催したんですよ」
新たな夢を叶え続けて、なお、「まだまだ、やりたいことがたくさんあります。夢はまだある…」
朗らかな力強いソプラノの声で現役続投を誓った。
(文・戸津井康之 撮影・板東毅弘)
森公美子オフィシャルサイト
公演情報
ブロードウェイ・ミュージカル
『天使にラブ・ソングを… (シスター・アクト)』
日時:2024年7月24日(水)〜28日(日)
会場:オリックス劇場
オリジナルプロデュース:ウーピー・ゴールドバーグ
作曲:アラン・メンケン
演出:ロバート・ヨハンソン
大阪公演サイトはコチラ