2023年
3月号
3月号
竹中大工道具館 叡智の彼方へ|第六回| 手道具が華やかだった頃
大工道具の標準編成
大工さんはどれくらいの種類の大工道具を持っているのでしょうか。お客様にもよく聞かれる御質問なのですが、かつてこれに関する調査が東京で行われました。昭和十八年(一九四三)、労働科学研究所の黒川一夫氏が、大田区大森の大工棟梁石井正作氏に仕事に必要な大工道具をたずね、それをリスト化しているのです。それによれば、どんなに安普請でも最低で七十二点の道具が必要で、本格的な仕事をするなら百七十九点もの大工道具を使うとのことでした。
その百七十九点のリストをもとに当時の大工さんが持っていた道具一式を再現したのが、今回紹介する「大工道具の標準編成」の展示です。当時の大工さんはこれだけの種類の道具を駆使して建物を作っていたのです。
最も種類が多いのはノミで、四十九点を数えます。木を大きく加工する時は首が太くて丈夫なノミをガンガン叩き込むことになりますし、繊細な作業に使うノミは首も細くて小柄です。削る幅に応じて複数の刃幅があり、さらに曲面用、細長い穴専用、溝の底専用など、特殊な形のノミもありました。
同様にカンナやノコギリ、キリやヤスリや金槌も、用途に応じて様々な種類がありました。昭和十八年当時はこれが標準的な大工道具一式だったのです。そして仮に出番の少ない道具でも、きちんと手入れしていつでも使えるようにしておくのが一人前の大工の心構えでした。道具に対するこだわりが、質の高い建築を生み出していたのです。
(学芸員・安田徹也)
竹中大工道具館
TAKENAKA CARPENTRY TOOLS MUSEUM
神戸市中央区熊内町7-5-1
Tel.078-242-0216
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)
開館時間:9:30~16:30(入館は16:00まで)
https://www.dougukan.jp/