12月号
神戸偉人伝外伝 ~知られざる偉業~㉜後編 横山光輝
横山光輝
漫画で挑んだ飽くなき探究…故郷に刻んだ創作の魂
あの実力派俳優も
「鉄人28号」や「魔法使いサリー」など人気アニメの連載漫画の原作を手掛け、日本中の少年少女を熱狂させた漫画家、横山光輝。その勢いは止まる所を知らず、アニメや実写ドラマの原作の先駆者としての責務も担い、漫画の可能性を模索。次々と新たなジャンルを切り拓いていった。
「伊賀の影丸」や実写ドラマ化される「仮面の忍者 赤影」などの忍者もの。人気アニメ「バビル2世」や特撮ドラマ化され、現在もロボットの模型が相次いで発売されている「ジャイアントロボ」などのSF漫画…とジャンルを問わずヒット作を繰り出していく。
その中でもロボットもののパイオニアともいえる「鉄人28号」は、現在まで映画化やアニメ化、ドラマ化が度々繰り返されており、2005年にも実写映画化され、話題を呼んだ。
このとき、鉄人28号を操縦する主人公の少年、金田正太郎を演じたのは、現在、若手実力派俳優として活躍する池松壮亮さんだった。3年前、映画「宮本から君へ」で主演した池松さんを取材した際、彼は「僕が初主演した映画が『鉄人28号』だったんですよ」と教えてくれた。
彼は、金田少年を演じたいために一般公募のオーディションに参加。全国から集まった子役俳優らを含む約一万人の中から選ばれたシンデレラボーイだったのだ。
「僕はまだ13歳でしたが、主演でしょう。撮影現場では、スタッフや共演者の人たちからちやほやされていたんです。僕が撮影現場で椅子に座っていると、スタッフの方が日傘をさしだしてくれる。現場にいた母はその光景を見て、僕を叱りつけました。〝ここでは、あなたが一番年下なのを忘れてはいけません!〟と。『鉄人28号』の現場で、僕は役者としての心構えができた。俳優の仕事の原点なんです」と苦笑しながら振り返っていた。
ところで、なぜ、少年の名は金田正太郎だったのか?
横山は、当時、大人気だったプロ野球界のスター、金田正一投手から、この役名を考えついたと明かしている。
壮大な歴史群像劇
横山の創作魂は尽きることなく、さらに漫画の未開の分野を開拓していく。
中国の歴史をテーマにした「三国志」、「史記」など壮大な列伝を長編漫画で発表。これまでの子供向けとされた漫画の概念を打ち破ってゆく。
「三国志」は1971から1987年までの約16年間、長期連載され、コミックスは60巻まで発行。累計8000万部を超えるロングセラー漫画として、今も不動の人気を誇っている。
新書「横山光輝で読む三国志」(潮新書)の著者で文学博士の渡邉義浩氏は同書の中で、「わたしが、『三国志』の世界に触れたのは、小学校の高学年のとき、横山光輝の『三国志』が最初でした」と明かし、「それ以来、『三国志』を専門として、大学の教員をしている今でも、横山『三国志』は、わたしの中で色あせない、『三国志』への感動をよみがえらせてくれる大切な本です」と綴っている。
渡邉氏は、古典中国学の専門家で、「三国志学会」事務局長も務めている。日本を代表する〝三国志のスペシャリスト〟は、横山の長編漫画をきっかけに、学者を志したのだ。
渡邉氏のように、横山が手掛けた「三国志」や「史記」を読み、その後の人生に大きな影響を与えられたという人は少なくない。
横山自身は、作家、吉川英治の「三国志」を読んで感動し、「三国志」の連載を始めるのだが、漫画によって、その重厚な活字の世界観を、子供たちにも分かりやすく、そして、歴史上の英雄たちを、現代に生まれた人々に、より身近に感じさせることに腐心し尽力した。
劉備、諸葛亮(孔明)ら活字でしか知る方法のなかった人物を生き生きとしたキャラクターで造形し、鮮やかに漫画で現代に甦らせた。子供から大人まで幅広い読者層を開拓し、難解な世界史を漫画で学ぶ楽しさを伝えた。
今、大人気の漫画「キングダム」などへと続く、漫画で歴史を伝える文化を確立した、この横山の功績は計り知れないほど大きい。
渡邉氏は著書の中で、こう強調している。
《横山『三国志』だけで、「三国志」の世界は十分に把握できます》と。
今年で16年目を迎えた「三国志祭」が今月、神戸市長田区で開催。地元商店街などを会場に三国志をテーマにしたパレードや展示会などが催された。横山が漫画で蘇らせた英雄たちの〝息遣い〟は、今も故郷の人々によって大切に引き継がれている。
=終わり。次回は大岡昇平
(戸津井康之)