2020年
3月号

兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第一〇五回

カテゴリ:医療関係

明石市民フォーラム
「どうする?あなたの看取りPART4」について

─明石市医師会が開催する明石市民フォーラムはすっかり定着していますね。
安尾 医療や介護に関し市民のみなさまが関心を寄せているテーマをともに考える明石市民フォーラムは2002年よりスタートし、第22回の昨年は2017年に続いて人生の終末期を考える「どうする?あなたの看取り PART4」をテーマに据え、訪問看護に焦点を当てました。10月5日に明石市民会館中ホールで開催したのですが、約400人の方々にご来場いただき、市民のみなさまの関心の高さを感じました。

─フォーラムはどのように進行しましたか。
安尾 3部構成で、第1部では福岡県久留米市でホームホスピス、「たんがくの家」を運営するNPO法人たんがくの理事長、樋口千恵子さんを迎えての基調講演、第2部では紙芝居による具体的な事例を紹介し、それらを踏まえ第3部でシンポジウムをおこないました。

─基調講演はどのようなお話でしたか。
安尾 「地域とともに生きるを支援」と題してご講演をいただきました。樋口さんは医療や介護を必要とする高齢者が増加する中、人間関係の希薄さから「地域力や介護力が低下している」と訴えられました。最期までその人らしく生きるという文化を地域に根付かせるためにも、お互いの存在を認め合うコミュニティーづくりの大切さを強調されました。支えあって生きることは足りない物を補い合うことだという考えで、いま一度昔ながらの「おせっかいの精神」で「お隣の人に関心を持ちませんか?自分のできることが何かを考えませんか?」と問いかけると、会場のみなさまも頷いていました。

第22回明石市民フォーラムは、訪問看護に焦点を当て、2019年10月に明石市民会館中ホールで開催。約400人の来場があった

樋口さんは、「地域とともに生きるを支援」と題して講演。
お互いの存在を認め合うコミュニティーづくりの大切さを強調した

第1部は、福岡県久留米市でホームホスピス「たんがくの家」を運営する
NPO法人たんがくの理事長、樋口千恵子さんを迎えての基調講演

─たんがくの家とはどのような施設ですか。
安尾 看護師であり市職員としても福祉行政を担当した樋口さんが、2011年に古い農家の建物を改築して立ち上げました。「たんがく」とは久留米の方言で「カエル」のことで、家=「帰る」場所、昔に「返る」、そしてカエルのようにワイワイガヤガヤ過ごしてほしいという思いが込められているそうです。現在31名の利用者を看護師、理学療法士、介護士など54名のスタッフが手厚く支え、普通の家のような環境で医療的ケアや終末期ケアを受けられます。利用者は地域の一員として、がんや認知症などを抱えながらも日常性を大事に、畑仕事や様々な催しを通じて自分らしく生活しています。また、隣組や美婆会といった地域の組織や団体、小中学校とも深く交流し、地域包括支援センターや地域医療連携室など地域も自発的に「たんがく村を育てる会」を結成、協力してくれるそうです。地域みんなで「あんたがいてくれてよかった」と言ってもらえるような生き方を支えていく素晴らしい取り組みは大変参考になります。

─第2部ではどのような事例が紹介されましたか。
安尾 訪問看護師の協力でがんの疼痛緩和をおこなって在宅看取りを可能にしたケースと、訪問看護師の介入によって中心静脈栄養管理をおこないながら自宅生活を継続したケースを紙芝居で紹介しました。いずれの事例でも医療行為はもちろん、家族への対応や医師との連携など、訪問看護師の役割の大きさがおわかりいただけたと思います。

第2部では、医療行為はもちろん、家族への対応や医師との連携など、
訪問看護師の役割の大きさが分かる事例を紙芝居で紹介

─第3部はどんな内容でしたか。
安尾 明石市医師会広報委員会委員長の石田義裕先生を座長に、基調講演をしていただいた樋口さん、明石市医師会在宅医療委員会委員の鈴木光太郎先生、明石市医師会訪問看護ステーション管理者の片畠常代さん、オリーブ大久保訪問看護ステーション管理者の徳永真澄さんをパネリストとして進行しました。明石市では24時間365日対応可能な訪問看護体制が整備されており、医療機関との連携も良く、自宅での看取りがほぼ100%可能になっている一方で、片畠さんや徳永さんからは家族間で意見が分かれている状況や老老介護、親族と疎遠な独居、遠方に子どもが居るケースなど難しい場合があるという現場の実情を伝えていただきました。また、元気なうちから延命治療や、人生の終点をどのように迎えたいかなどを家族と話し合うことの大切さも話題に上がり、自分の命なので自分の意思が大切で最期の迎え方の選択は「これまで一所懸命働いてきた自分へのご褒美」と樋口さんはおっしゃっていました。鈴木先生は終末期の医療やケアについて事前に話し合うACPや、患者や家族の意思で心肺蘇生をおこなわないDNARについても触れられ、がんの痛みは薬でほぼコントロールできるとお話されました。

第3部のシンポジウムは、明石市医師会広報委員会委員長の石田義裕先生を座長に進行。様々な現場の声も盛り込まれた

─いろいろな現場の声も聞けたのですね。
安尾 片畠さんは本人や家族の思いに耳を傾けありのまま受け入れることを、徳永さんは患者さんの状態を随時お話して介護疲れしないよう家族のケアも重視しているとお話されました。しっかりケアをして看取ればお葬式で家族が笑って見送ってくれて、やすらかにお浄土へ行けるのではという樋口さんのお話も印象に残りましたね。樋口さんは認知症も誠心誠意同じ目線でケアすればだんだん落ち着くともおっしゃっていました。

─意義のあるフォーラムでしたね。
安尾 シンポジウムで石田先生がおっしゃった通り、死を嫌う世の中ですが死は誰にでも来ることで、在宅での看取りは子供や孫といった次の世代にとって良い人生の勉強にもなるのではないでしょうか。フォーラムの動画を公開していますので、ぜひご覧ください。

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明石市医師会理事
やすお脳神経外科クリニック院長

安尾 健作 先生

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