10月号
神戸市医師会公開講座 くらしと健康 73
マダニから感染する危険な病気
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)に注意
―SFTS(重症熱性血小板減少症候群)はどんな病気ですか。
八田 報道ではダニ感染症やマダニ感染ウイルスなどとよばれているもので、2011年に初めて特定された新しいウイルス、SFTSウイルスに感染しておこる病気です。2009年以降中国や米国での患者報告がありますが、今年1月に海外渡航歴のないSFTSの患者(昨年秋に死亡)が国内ではじめて確認されました。潜伏期は6~14日で、主な症状は発熱と消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)ですが、神経症状、リンパ節腫脹、皮下出血や下血などの出血症状も起こします(表1)。重症の場合は死亡することもありますが、実質的な致死率は約6%とされています。
─SFTSウイルスにはどのようにして感染するのですか。
八田 多くの場合、ウイルスを保有しているマダニに咬まれることにより感染しています。国内でもマダニの活動期の春から秋にかけて患者が発生しています。また、感染患者の血液・体液との接触感染も報告されています。
─日本ではどれくらい発生していますか。
八田 前述のとおり国内では今年はじめて確認されましたが、調査の結果2005年から昨年までの間にさらに10名の方がSFTSにかかっていたことが確認されました。現在も患者の発生が報告されており、今年8月26日までに28名の患者が確認されています。兵庫県以西の13県で発生していますが、患者報告のない地域でもウイルスを保有したマダニが見つかっていますので注意が必要です。
─マダニについて教えてください。
八田 マダニ類は固い外皮に覆われた比較的大型のダニで、吸血性です。成虫で3~8㎜ですが、皮膚に咬着し数日間吸血すると10~20㎜にまで膨張します。主な生息地は森林や草むらです。したがってマダニは、食品などに発生するコナダニや衣類などに発生するヒョウヒダニ、夏期夜中に咬まれて皮膚炎をおこすイエダニとは全く異なります。マダニのSFTSウイルスの保有率はそれほど高くなく、中国の調査では患者が発生している地域で捕まえたフタトゲチマダニのうちウイルスの遺伝子が見つかったのは数%です。日本国内ではこれまでに複数のマダニ種からからウイルスの遺伝子が検出されていますが、保有率などについては現在調査中です。
─SFTSにかからないためにはどうすればよいですか。
八田 現在のところSFTSに対し有効なワクチンはありませんので、マダニに咬まれないようにすることが重要です。これはSFTSだけでなく、国内で毎年多くの報告例があるライム病、日本紅斑熱、つつが虫病などダニが媒介する他の疾患の予防にも有効です。マダニは炭酸ガス濃度を察知して人や動物が近づいてくるのを知り、通るときに乗り移ってきます。衣類や皮膚を這い回って適当な部位に咬着し、吸血します。草むらや薮などマダニが多く生息する場所に入る場合には、長袖長ズボン(シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は靴下や靴の中に入れる)、足を完全に覆う靴(サンダルなどは避ける)、帽子、手袋を着用しましょう。また、首にタオルを巻く、登山用スパッツを着用するなど肌の露出をできるだけ少なくすることが大切です。衣服はマダニを目視で確認しやすい明るい色のもの、マダニがつきにくいウインドブレーカーのような化学繊維素材のものがおすすめです。また、野外活動後は入浴し、マダニに咬まれていないか確認してください。皮膚に咬着し吸血している場合は、一見スイカの種がくっついているように見えます。特にわきの下、足の付け根、手首、膝の裏、胸の下、頭部(髪の中)をチェックしてください。
─マダニに咬まれたらどうすればよいですか。
八田 マダニ類の多くは、人や動物に取り付くと皮膚にしっかりと口器を刺し、長時間(数日~10日以上)吸血しますが、咬まれたことに気づかない場合も多いです。吸血中のマダニを見つけた場合、無理に引き抜こうとするとマダニの一部が皮膚内に残って化膿したり、マダニの体液を逆流させたりする恐れがありますので、皮膚科で除去・洗浄してもらいましょう。そして、咬まれた後数週間は体調の変化に注意し、発熱などの症状が出た場合は医療機関で診察を受けてください。
八田 晋 先生
神戸市医師会監事
八田皮フ科院長