2014年
2月号
グレース公妃に兵庫県知事のメッセージを伝える市村さん(1981年)

神戸鉄人伝(こうべくろがねびとでん) 神戸の芸術・文化人編 第50回

カテゴリ:文化人

画・文
とみさわかよの

ひょうごアーティストサロン
コーディネーター
市村 礼子さん

兵庫県民会館の1階にあるひょうごアーティストサロンは、若手アーティストたちが様々な相談をし実績を積むための施設です。壁面には絵画や書が掛けられ、1階のロビーでは新進アーティストによるコンサートが月に1度開かれています。コーディネーターは山田弘さんと市村礼子さん。神戸新聞社の文化事業局で手腕を振るい、数々の事業を成し遂げてこられたお二人は、様々なジャンルのアーティストの信頼を集める存在。事業を通じて知り合った人々との縁は今も健在で、お二人の人柄がうかがえます。「神戸鉄人伝」の50人目にお話をうかがうのは、ベテランアーティストからは「いっちゃん」と親しまれ、若手たちにも慕われる市村さんです。

―様々な方との出会いは、新聞社でのお仕事からですか?
そうです。事業局の中には芸術文化団体の事務局が置かれていたので、行事を開催したり、地域行政の事業企画に関わったり、時には大きな国際交流事業なども開催してきました。その中で、とにかくいろんな人に出会えたのがよかった。今もよく訪ねて来てくれるのは、事業局時代に出会った人たち、それに最近コンサートなどで関係の深い若手アーティストたちなど、幅広いですね。ここはアーティスト同士が、世代を超えて交流する場でもあります。

―新聞社の事業では、そうそうたる著名人とも接されていますね。
新聞社主催の講演会では、講師にその当時の話題の人を招くことになっていたので、交渉は大変でした。講師は作家の遠藤周作、佐藤愛子、渡辺淳一、五木寛之、瀬戸内寂聴、石原慎太郎、音楽家の団伊玖磨、映画監督の篠田正浩…等々、ざっと100人を超えました。承諾していただいた時は、もう嬉しくてね。当時はメールなんて無いから、電話で約束して東京へ会いに行きました。時の人と直に接するんだからもう胸ドキドキで、事前にその方の本は必ず読んで、ちょっとした会話にも備えて…若い頃の懐かしい思い出です。

―中でも一大事業だったのが、モナコ公国への親善使節の派遣です。
「モナコ国際花のフェスティバル」は、神戸新聞社がモナコ公国との文化交流のため、一九七二年に華道家を親善使節として派遣、以後九二年まで続いた事業です。私は毎回担当として華道家と一緒に参加して、ローマ法王と3回、握手・接見もしました。モナコ公国と日本との国交樹立は二〇〇六年だから、神戸新聞社はそれより早くから交流していたわけです。八一年には神戸新聞社の招きで、レーニエ大公とグレース公妃がポートピア博にご出席された時、私は神戸から有馬、京都まで案内をさせていただきました。これは素晴らしい経験で、いつまでも心に残っています。

―ポートピア博を挟みながら、交流は20年も続いたのですね。
グレース公妃が亡くなられてからも親善使節の派遣は続き、親善交流は一九九二年までの間に、いけばなの流派・述べ流派を派遣しました。これらの成果もあってか、今度モナコ駐日大使が来神されますが※、この方は親善使節を受け入れに協力してくれた当時の市長のご子息。また何かの交流ができるといいですね。
(※モナコ公使は二〇一三年一二月に来神、この取材は来日前)

―さて、阪神・淡路大震災で、神戸新聞社は大打撃を受けました。
社屋が崩壊し仕事場を失いながらも、被災した人たちに勇気と希望を持ってもらおうとコンサートや将棋大会、バレエ、日舞などの事業を積極的に実施しました。涙を流して感動する人々に、私たちも希望をもらいました。そんな時に講演会でお世話になった篠田監督から、真赤なバラ50本もの花束が届いたんです。これには感激しました。

―篠田監督にとって、誠実な仕事と温かいお人柄が忘れられなかったのでしょうね。
ありがたいことです。事業局時代、もちろん仕事は一生懸命やったつもりです。でも私がやってこれたのは自分の力ではなく、先生方や会社の上司や先輩方にいろいろ教えていただいたおかげ、そして新聞社というバックあってのことです。すばらしい人たちに恵まれたと、皆に感謝しています。

―開設8年目のひょうごアーティストサロンですが、芸術文化の交流拠点として、これからの抱負を。
自分が支えてもらった分、これからは若い人たちを支援していきたい。ベテランの先生の下で修業して、これから伸びていく人に場を提供してあげたいです。若い人たちと話すのはとても楽しい。もちろん長いおつきあいの方々も、これまで通り気軽に立ち寄ってくださいね。お待ちしています。
(2013年11月25日取材)

グレース公妃に兵庫県知事のメッセージを伝える市村さん(1981年)

とみさわ かよの

神戸市出身・在住。剪画作家。石田良介日本剪画協会会長に師事。
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。
日本剪画協会会員・認定講師。神戸芸術文化会議会員。
平成25年度 神戸市文化奨励賞受賞。

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