5月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第四十九回
成育基本法(案)をめぐって ~少子高齢化対策と共にみる〜
―成育基本法(案)とはどのようなものですか。
越智 子どもを育てやすい環境づくりは国の責務であり、「成育基本法」とは、子どもとその養育に関わる諸事業を一層推進するという法案で、現在策定中です。小児科学会が提唱しはじめ、産婦人科学会等関係する方々が推進されており、日本医師会の委員会には渡辺志伸兵庫県医師会理事が参画されています。基本計画の概略としては、以下の項目が挙げられます。
①次世代を担う成育過程にある者に対する生命・健康教育の充実。
②社会、職場における子育て・女性のキャリア形成のための支援。
③周産期母子健康・保健の充実。
④周産期医療体制の充実。
⑤養育者の育児参画支援制度充実。
⑥予防接種等の疾病予防体制整備。
⑦妊娠・出産・子育ての継続的支援。
その他、重要政策として、子どもの医療費助成・障害児・発達障害児とその家族への支援、慢性疾患・難病の児の成人への移行体制整備、子どもの事故予防、貧困家庭・片親家庭への支援などがあります。政府は、これらに財政上の措置を講じることとなっています。
―なぜこの法案が必要なのでしょうか。
越智 日本では、出生数減少と寿命伸長に、晩婚化・晩産化などで、急速な少子高齢化が進んでいます。子どもへの公的医療費は少なく、また子どもの保健・医療の地域格差の拡大や、子どもの相対的貧困率も増加傾向にあります。このように、子どものための支援が遅れ、子どもを産みにくく育てにくい家庭・職場・社会環境となっています。子育てを「次世代育成のための社会全体の問題」ととらえ、保健・医療・福祉を包含した総合的な支援制度が必要と考えられ、この法案の成立を進めています。
―成育医療とはどのようなもので、またどのような問題がありますか。
越智 図1のように「成育医療」とは、胎児期、新生児期、小児期、思春期を経て次世代を育成する成人期までの成長過程というライフサイクルの中で生じる、こころと体の問題に対応する医療を意味します。周産期では、その医療体制の充実・支援、高齢妊娠・ハイリスク妊娠の増加、0歳児からの虐待、生殖医療・先端医療の問題、生命倫理や法制の整備など、広範囲の検討が必要です。そして乳児、幼児と連続してその成長・発達と共にそれぞれの問題が多々あります。保育園児、小学生になると、思春期も含めて、学校保健は、文科省・教育委員会の、医療は厚労省の管轄であり、より一層の連携が必要かと思います。また、小児医療から成人医療への連携体制の推進も必要です。そして健康教育の一つとして、適切な出産年齢があるなど、女性特有の生涯を男女とも学ぶことが重要です。
―国の少子高齢化対策と関連してはどうでしょうか。
越智 国も以前から、県も早くより少子化対策本部を設置しています。さらに、本年3月20日には、社会の経済の根幹を揺るがしかねないと「少子化社会対策大綱」が閣議決定されました。また、国は高齢化対策として、医療・介護の連携や地域包括ケアシステム等次々と打ち出していますが、医療や介護の充実が主眼というよりまず財政・経済成長のためとしての考えが強いように思われます。病院には地域医療ビジョン策定として医療機能を制約し、また在宅医療やかかりつけ医等に関しても、皆様の健康・医療を第一とする医師会の視点とはややずれがあるようですが、協議し、是とするものには協力していければと思います。
成育基本法は、財政・経済成長やその他のためでなく、真に、子どもの幸せのために何をすべきかという視点をもって、施策に生かしてほしいと思います。
そして神戸―子どもを育てたくなる街、生き活きした子どものあふれる街、〝神戸っ子〟みんなで創り継ぎたいと思います。
越智 深 先生
兵庫県医師会理事
おち内科クリニック院長