2015年
7月号

兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第五十一回

カテゴリ:医療関係

病床機能報告制度と地域医療構想(ビジョン)策定について
~各地域の実情に即した地域医療体制を〜

―2025年には団塊の世代が75歳以上となるといわれています。将来の医療提供体制にどのような影響があるのでしょうか。
三浦 高齢者人口が激増すると医療ニーズが高まり医療費や介護費の増大が加速するため、このままでは社会保障制度が維持できません。そのために国は医療の効率化・医療費の適正化(削減)を推進しており、地域医療にも影響が及ぶでしょう。兵庫県は郡部と都市部で医療需要にかなり地域差があるので、地域の医療ニーズに即した医療の提供が一層必要となります。さらに高齢者世帯や認知症の高齢者の増加など、社会構造の変化を踏まえると、高齢者自身が住み慣れた地域での包括的な医療・介護サービスの提供が望まれます。このような状況に対応すべく、国は医療法を改正して最適な地域医療提供体制を構築する目的で病床機能報告制度を創設、その情報を基に地域医療ビジョンを都道府県の医療計画の中で策定することになりました。

―病床機能報告制度とはどのようなものですか。
三浦 地域ごとの医療の需給状況や今後の方向性の把握を目的とし、一般病床及び療養病床がある病院、有床診療所を対象に、自院の病床機能を4つの区分(図)に分類して都道府県に報告する制度で、地域における医療機関の役割分担を明確にすることが可能になります。既に昨年10月から報告が始まっており、都道府県は医療機関からの報告内容を基に本年中に地域の実態に合った地域医療ビジョン(地域医療提供体制の将来像)を策定し、新たな体制作りと住民への情報開示を進める予定です。

―地域医療ビジョン策定により、地域医療はどう変わりますか。
三浦 地域の医療需要の将来推計や病床機能報告制度などから得られたデータを分析し、各医療機関は需給バランスなどを鑑みて、将来の目指すべき病床に近づけるための調整を医療機関同士も協議しながら進めていくことになります。これはあくまで医療機関の自主的な取り組みによる調整で良いため、仮に病床の転換が必要であっても自院の経営に影響が出るなど医療機関相互の思惑のためにうまく進まないのではないかという懸念があります。そのため国は都道府県知事に対して医療機関への要請や命令・指示を出せる権限(病床削減の権限はない)を与え、従わない医療機関には措置を講じることが出来るようにしました。2025年の医療提供体制における必要病床数は、構想区域(地域医療を策定する単位)ごとに推計されます。構想区域は原則、医療計画に定めている二次医療圏(一般的な入院に係る医療サービスを提供する医療圏)とされましたが、患者によっては病気の種類やアクセス時間を考慮して圏域を越えて医療機関を受診する場合もあるでしょうから、二つ以上の圏域を合わせて一つの構想区域とすることも可能としています。兵庫県には10圏域ありますが、この構想区域ごとの推計を参考に、同じ圏域内の医療機関同士で調整(病床配分)をさせられるわけです。病床の転換(機能分化)が進むことで医療機関の役割分担が明らかになることは良いことですが、国は医療費を少しでも削減したいという目論みで高度急性期病床を少なくする方向性のため、別の役割を担うような病床への転換を求められるようなことになると必要な医療が受けられない可能性が出てきます。また、慢性期病床においては多くの入院から在宅療養に移行させるような調整になるため、今まで以上に在宅医療の重要性が増すでしょう。ビジョンの策定にあたっては、地域住民のニーズに即した地域医療体制を実現するという視点で進めることが重要です。

―ビジョン策定に医師会はどのように関わっていくのでしょうか。
三浦 都道府県との協議の場(地域医療構想調整会議)が設けられ、都道県医師会もこれに加わることになっています。兵庫県医師会としても行政主導にならぬように調整役を担いたいと考えています。当然、地域医療を考えるためには地区医師会の役割がかなり重要になります。各圏域にも行政との協議会が設置されますが、地域実情を熟知する地区医師会がこの協議会を主導してほしいですね。

三浦 一樹 先生

兵庫県医師会理事
三浦医院 院長

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