2025年
11月号

神大病院の魅力はココだ!Vol.48 神戸大学医学部附属病院 救命救急科 大島 拓先生に聞きました。

カテゴリ:医療関係

救急医療と救急医の役割や専門性、また神大病院救命救急科の現在と今後の方向性について、大島拓先生にお話を伺いました。

―救急医療の対象になる患者さんは?
医学的に緊急性が高い状態の患者さん、多くのケースでは救急車で運ばれて来る患者さんを診るのが救急医療です。指先を切ってしまったという程度のけがから、交通事故などによる重大なけがまで、一時的な腹痛や咳のような比較的軽い症状から、心筋梗塞や脳卒中のような内科的な病気、心臓が止まるほどの状態に陥っている患者さんまで、対象はさまざまです。
ただし神大病院は三次救急医療機関ですので、救急救命科では比較的重症で速やかに治療が行われないと命の危険に直結するような状態の患者さんを主に受け入れています。

―今年の夏には多くの熱中症の患者さんが搬送されて来たのですか。
熱中症は最重症で命にかかわるケースもありますが、ほとんどの場合、点滴や体を冷やすことで回復しますので、三次救急まで来ることはあまりないですね。一方で、熱中症が疑われて搬送されてきて、いろいろ検査をしてみた結果、実は感染症や肺炎にともなう発熱だったということはあります。

―神大病院の「救命救急センター」はどういう位置づけなのですか。
神大病院では救命救急センターを救命救急科と総合診療科で共同運用しています。救急患者さんが来られたら重症・軽症分け隔てなく受け入れをしますが、概ね救急車で搬送されるような重症の患者さんや神大病院初診の患者さんは救命救急科で、比較的軽症の患者さんや普段から当院を受診されている場合は総合診療科と、受け入れを振り分けています。もちろん、はっきりとした線引きをしているわけではなく、臨機応変に対応をします。

―救急医はどこまでの役割を担っているのですか。
救急医がどこまで治療に介入するかは病院・施設によって違います。軽症から重症まですべての患者さんを受け入れる、いわゆるER(Emergency Room)型では救急患者さんの問題点を整理して、専門診療科に引き継ぐところまでの役割を担うので、救急医は初期治療と診断までを担当し、その先の専門的な治療には関わりません。それとは別に、日本の多くの施設で発展してきたのは、並行して集中治療を担う救急医療で、最重症の患者さんに対して救急医が引き続き関わり、命の危険をある程度乗り越えて、一般的な入院治療へ移行できるタイミングで専門診療科へ引き継ぐというシステムです。

―神大病院救命救急科の場合は?
基本的にはER診療に加えて重症の管理も継続して行っています。どの臓器の機能が低下して命に関わる状態にあるのかを判断し、検査をしてどのような治療につなげて救命するのかをマネジメントして、病状が安定してそれぞれの診療科での一般病棟診療に引き継げる状態になるまで救急医がサポートします。

―24時間、常に各診療科の先生方が待機しておられるのですか。
診療科によって体制が違い、すべての診療科が常に院内で待機しておられるわけではないのですが、電話対応など何らかの方法で引き継ぎができる体制が取られています。整形外科や口腔外科の先生方には救急救命科に出向いただく形で協力を頂いています。

―初期治療から診断まで、救急科の先生方は体全体について医学的知識を持っておられるということですか。
臓器別、分野別ではなく、また、けがか病気かにも関係なく、広く知識を持ち、どんな状態の患者さんにも対応できるというのが救急医の専門性です。例えば「心臓は診るけれど肺のことは分かりません」「お腹の中は診るけれど脳のことは分かりません」などと、救急医が臓器を限定してしまうと救急患者さんの対応はできません。

―神大病院でも救急専用の集中治療病床ECUが設けられていますが、集中治療までを担う体制を目指しているのですか。
救命救急センターに4床開設されています。重症患者さんの命に関わる状態はすぐに解決するわけではなく、数日から2週間程度はかかります。例えば、コロナの重症患者さんに人工呼吸器を付けて酸素を吸ってもらったら、すぐに回復するわけではありません。人工呼吸器を外せるか、ECMOに切り替える必要があるかなど状態をみて、そこを乗り越えた時点で、元の状態まで回復させる治療へとつなぐ。これが、救急医が目指すところで、神大病院でも小さな規模からですが始めているところです。

―救急医は集中治療も専門として持っているのですか。
救急科という基本領域に付随する集中治療という分野を専門とする救急医は一般的に多いですね。その他にも、付随する専門として外傷外科や消化器内視鏡、血管内治療などを持ち、サブスペシャリティーとして主に治療に関して専門性を発揮する救急医もいます。また、救急医が内科や外科など基本領域をダブルボードとして持つケースもあります。

―災害医療というのも救急医療の領域で、救急医の役割の一つなのですか。
災害医療に関わるというスタンスの救急医が多いのは確かですが、決して救急医だけで完結するものではありません。災害発生直後はDMATなどで派遣される救急医は欠かせない存在ですが、その後中長期的に、普段とは違う環境で生活することになり、いつも受けていた治療が受けられなくなった方々に対しては内科や外科など一般診療科の先生方の協力が必要です。その段階へと引き継ぐためのマネジメントは救急医が担います。災害医療に関する素養は医療者全員が認識を持っておかなくてはいけない領域だと思います。

―神戸大学が救急医療において今後担っていく役割は?
神戸市内には中央市民病院や神戸赤十字病院・兵庫県災害医療センターなど特色のある救命救急センターがあり、その中で神戸大学はどういった役割を果たしていくべきなのかを考えています。まず三次救急患者の受け入れ体制を、今まで以上に発展させていくこと。さらに神戸市だけでなく兵庫県全体として安定的に救急医療を提供していくためにも、専門医を輩出できる機関として、救急医療の担い手になってくれる人材を見つけて、きちんと教育できる環境を整え、育成していくことが果たすべき役割だと考えています。

大島先生にしつもん

Q.大島先生が医師、中でも救急の専門医を志された理由は?
A.子どものころ、アメリカに住んでいて、テレビなどで見る救急現場で治療をする救命救急士さんに憧れていました。「こんな仕事ができるといいな」と思っていたところ、日本に帰国し、それが医師でもできる仕事なんだと知って、救急医になろうと思うようになりました。

Q.「救急医になる」という目標を持って医学部に進学されたのですね。
A.医学部でいろいろな勉強をするうちに、他にも興味を持つ分野が出てきてちょっと迷った時期もありましたが、医学部6年生のとき、病院実習で週1回の救急外来の当番があり、「やっぱりここだ」と初心に帰りました。

Q.日頃、患者さんに接するにあたって心掛けておられることは?
A.今、目の前の患者さんを救命するためにやってあげられることは何かをまず考え、一通りの手を尽くしたうえで、患者さんご自身やサポートしておられるご家族が望んでおられることと擦り合わせて治療をしていかなくてはならないと思っています。

Q.救急医を育成するにあたって心掛けておられることは?
A.救急医が魅力的な仕事だと理解してもらおうと心掛けています。「初動対応しかできないから達成感が得られない」と感じている人には「サブスペシャリティーやダブルボードで幅広く活躍できる場がある」と、逆に「幅広く」をプレッシャーに感じる人には「自分のできる範囲で頑張ればいい」と伝えたいです。たまに「救急医はドクターヘリに乗らないとダメなんですか?」と聞かれますが、そんなことはないです(笑)。スポーツに関わる救急医療にも取り組み始めています。試合やスポーツイベントで選手のけがや内科的な原因で起きる発作など、緊急事態に対応できるのは救急医です。新たな救急医の魅力の一つとして伝えていこうとしています。

Q.ご自身の健康法やリフレッシュ法は?
A.日本救急医学会では「人を救うには、まず自分が健康でなければならない」というキャッチフレーズを掲げています。ジムに通ったり、週1回は走ったり、料理をしたり…、まずは、自分が心身ともに健康であることを大切にしています。

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