3月号

神大病院の魅力はココだ!Vol.40 神戸大学医学部附属病院 リハビリテーション科 原田 理沙先生に聞きました。
いろいろな場面で橋渡し的な役割を担っているという神大病院リハビリテーション科。どういうことでしょうか?その役割や小児のリハビリテーションのことなど原田理沙先生にお話を伺いました。
―神大病院のリハビリテーション科を受診するのは難しい病気の患者さんですか。
基本的には大学病院で治療や手術が必要で各診療科に入院しておられる患者さんが対象です。リハビリテーション室や病棟で理学療法士や作業療法士、言語聴覚士の指導の下、リハビリを行っておられます。退院後の患者さんは地域の回復期リハビリテーション病院などの医療機関などに引き継ぐことになるのですが、進捗状況や体の状態を定期的に確認するために受診している方もおられます。また、リハビリ専門医が担当する装具外来や、痙縮と呼ばれる体のこわばりの治療のために受診される方もおられます。
―どんな疾患で入院している患者さんがどのようなリハビリを受けているのですか。
がんなどの手術を受けた患者さんをはじめ、心筋梗塞などの心疾患、脳梗塞や脳腫瘍などの脳疾患など非常に幅広い領域です。どんな治療や手術の後のリハビリにも共通する部分があり、大きく3つに分かれます。一つが体全体の動きに関わる理学療法です。手術後、ICUに入られた患者さんの場合はベッド上での筋力訓練や関節可動域訓練、体を安定させる座位訓練、立位訓練、歩行訓練へと進みます。呼吸器を外す際、自力で呼吸をするための訓練も理学療法の範疇です。言語聴覚療法には、言葉が喋りづらい場合の言語訓練や食べ物が飲み込みづらくなっている場合の嚥下訓練、また、失語からの回復が難しい場合の代替コミュニケーション手段の訓練などがあります。手や指のまひによってやりづらくなった机上での動作訓練や利き手がまひしてしまった方の利き手交換訓練などといった、日常生活の回復に直結するのが作業療法です。
―リハビリは早期に始めるほど効果的なのですか。
低侵襲の手術が普及し、早い時期から段階を前倒しして進めることが可能になったことは確かです。しかし、リスクも伴います。例えば、血圧が安定しない患者さんを早い時期からベッドで無理に起こすと血圧が急上昇してしまうかもしれません。そこで、どの時期からどの程度のリハビリを始めるのかについてリハビリテーション科と主治医が相談しながら、患者さん一人一人に適した計画を立て、それに沿ってリハビリ専門医、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がリハビリテーション医療を提供します。
―小児リハビリテーションも対象となる疾患は大人の場合と同じですか。
小児の場合も対象となる疾患は非常に幅が広いです。神大病院の場合は小児がんでの入院患者さんが多く、中でも白血病など血液に関わる疾患の場合は長期にわたる入院と治療が必要ですし、大人ならば通院して受ける固形がんの化学療法も入院して免疫低下や副作用を観察することになり、やはり長期化します。筋ジストロフィーなど神経・筋疾患の入院患者さんや、脳性まひなど先天性疾患、遺伝的要素で小児期に発症する「希少疾患」をもつ患者さんもおられます。
―小児のリハビリは大人とは違うのですか。
リハビリには機能回復と、もうひとつ「活動を育み日常生活の自立度を高める」という目的があります。たとえ歩けなくても電動車いすでどこへでも行けますし、最近は呼吸器が付いていて喋ることができなくてもSNSで発信をすればいろいろな活動ができます。病気や障がいがある中で発達し、大人になっていく小児の場合は「活動を育み成長を支えるためにできることは何か」を考えながら工夫しています。
―例えば、どんな工夫ですか
入院が長期になると、学校に行けなくなったり、同年代との触れ合いの機会が持てなくなったりします。そこで、患者さんに関わる多職種のスタッフが協力し、相談相手になったり、他の小児患者さんと関わりを持てる機会を作ったりしています。もともとの学校などにおけるライフイベントもできるだけ大事にしています。「卒業式に出席したい」という患者さんがおられたら、リハビリで卒業式のシミュレーションをしたり、学校と連絡を取って注意事項を確認したりと、目標達成まで、できる限りフォローをします。残念ながら立つ、歩くといった動作が制限される患者さんもおられます。だからといって、「外出できない」などということが無いように補装具の処方や指導を行っています。
―補装具とはどういうものですか。
足にまひがあり、力のコントロールがしにくい場合に着けて、立って歩く練習をする下肢装具、体幹にまひがあり、うまく座れない場合に身体に着ける体幹装具などがあります。また、移動に車いすが必要な患者さんには様々な車いすを調整して処方します。
―装具を着けての訓練は子どもさんにはつらいでしょうね。
装具はいつも着けていてほしいので、義肢装具士さんと相談して子どもたちの好きなデザインを取り入れて製作してもらいます。新素材を使って軽くて、かつしなやかな最新の装具なども取り入れるようにしています。訓練にはゲーム的な要素も取り入れて、子どもたちが楽しみながら取り組めるよう心掛けています。
―子どもから大人への移行期医療の問題は?
成長に伴って装具は作り変えが必要ですし、患者さんの状態も変化します。装具を着けていた子どもさんが大きくなり、必要なくなるケースもあります。神大病院では小児リハビリテーションが独立しているわけではないので継続して担当することができ、移行期医療の問題が少ないのは患者さんにとっての大きな利点だと思います。
―小児科をはじめ、各診療科と常に連携が必要ですね。
院内、ほぼすべての診療科と常に連絡を取り合っています。一部、独自に行なわれている眼科や耳鼻科のリハビリもありますが、視力や聴力に関する情報も知っておかなくては全身のリハビリに支障が出ることもあります。院内のリハビリスタッフとは毎日、密にコミュニケーションを取っています。
―地域の医療機関とも連絡を取り合っているのですか。
治療をする先生と地域でリハビリを担当するスタッフがそれぞれに「歩けるようになる」「車いすで動けるようになる」などと定める目標が食い違っていたら、混乱するのは患者さんです。そこで、退院後の患者さんがリハビリを受けておられる医療機関のスタッフともWEB会議なども活用してできるだけ情報を共有するようにしています。小児については市内3カ所の療育センターとも連携し、日頃から連絡を取り合い、時にはこちらから出向いてリハビリや装具の調整などを行っています。神大病院リハビリテーション科は院内、院外問わずいろいろな場面で橋渡し的な役割を担っています。
原田先生にしつもん
Q.原田先生は何故、医学の道を志されたのですか。
A.両親や親せきの多くが小学校の先生で、私も子どもに関わる仕事に就きたいと思っていました。高校生のころ、テレビでNICU(新生児集中治療室)の特集を見て、子どもの命を救い、生活を手助けできる仕事に就きたいと思うようになり、医学部に進学しました。
Q.リハビリテーションを専門にされた理由は?
A.私自身、運動が好きで学生時代はバスケットボールをやっていました。そこで子どもの運動や活動に関わろうと、まず整形外科に入りました。手術をするというより、術後の患者さんが元の生活に戻っていく段階で手助けをしたいと思い、リハビリテーションに重きを置いて仕事をしています。
Q.日頃、病院で患者さんに接するにあたって心掛けておられることは?
A.お医者さんは、特に小児の患者さんには嫌われます。顔を見たとたんに泣かれることも(笑)。注射など嫌なことは正確に、できるだけ短い時間で終わらせるようにしています。また、診察室ではその日の様子をみるだけでなく、日ごろの生活など背景をきちんと把握するよう心掛けています。子どもさんなら、学校に通えているのか、支援級に入っているのか、体育はできているのか、困りごとはないかなど、短い診察時間でできるだけ多くの情報を引き出し、それに基づいて公的サービスの情報を提供したり、必要な支援を受けられるように意見書を書いたりして、できる限り患者さん自身が望む生活に近づけてあげたいと思っています。
Q.大学で学生さんを指導するにあたって心掛けておられることは?
A.学生さんは、病気の治療法や手術の方法については他の診療科で学んできます。患者さんが一個人として社会でどのように生きているのかを把握するのがリハビリテーションには大事だと理解してもらうようにしています。
Q.ご自身の健康法やリフレッシュ法があれば教えてください。
A.子どもたちのミニバスケットの応援や、私自身もママさんバスケチームでリフレッシュしています。子育てと仕事に追われる毎日で自分の健康を気遣っている余裕がないのですが、子どもたちと一緒にいつもバタバタと走り回っているので運動不足にはなっていないのが唯一の健康法かなと思っています。