2025年
1月号

神大病院の魅力はココだ!Vol.39 神戸大学医学部附属病院 形成外科・美容外科 榊原 俊介先生に聞きました。

カテゴリ:医療関係

大学病院の形成外科は、他の診療科とも連携して大きな役割を担っています。どんな治療や手術が行われているのでしょうか。榊原俊介先生にお話を伺いました。

―形成外科の主な役割は?
かすり傷や深くまで至っている挫滅創まで、熱傷(やけど)や犬の噛み傷などの急性創傷を正しく治療して、きれいに治すのが形成外科の一つの役割です。さらに、傷口に皮膚が張らずじゅくじゅくした状態が続く慢性創傷の治療も形成外科の守備範囲です。例えば寝たきりの状態で起きる褥瘡(じょくそう・床ずれ)や、手術後の感染症によって起きる創傷部をきれいにして傷口を閉じる処置などがあります。この領域については専門的に治療をするのが、形成外科の大きな役割の一つになっています。他にも、小児の先天奇形の治療や美容外科も形成外科の範囲です。

―腫瘍の切除も形成外科で行うのですか?
皮膚やその近くにできた腫瘍を摘出・切除するだけでなく、他の診療科とチームを組み、腫瘍の切除後にできた欠損部分の再建を担当するのも形成外科の領域です。神大病院では、がんの摘出手術による欠損部分に対する再建で多くの症例を扱っています。

―どんながんの手術で欠損部分を再建するのですか。
主に乳がんと頭頚部がんで、患者さん本人の体の他の部分から組織を切り取って欠損した部分に移植して再建します。整形外科と協力して、脂肪や筋肉から発生する肉腫の手術後、形成外科で再建をするケースもあります。

―体のどの部分からどんな組織を持ってくるのですか。
再建する場所によって違い、基本的には機能の損失が少ない部分です。例えば、乳がん手術後の乳房再建では、腹部か背中から持ってきます。腹部の場合は、皮膚と皮下脂肪に血管を付けたまま体から一旦切り離し、乳房の場所で手術用顕微鏡を用いて動脈・静脈両方をつなぐと組織が生着します。背中の場合は、切り離すことなく血管がつながったままの状態で皮膚や皮下脂肪、筋肉を乳房の場所まで引き上げてきます。
首から上の部分・頭頚部のがんの中で、舌がんの場合は主に前腕や腹部、太ももから必要な組織を取って移植します。がんが顎(あご)の骨まで及んで下顎骨を切除するケースでは、脚のひざ下にある腓骨を移植します。喉を食べた物が通る下咽頭部をがんで切除した場合は、小腸の一部を切り取り食道とつなぎ、通り道を再建します。

―再建した部分に感覚は戻るのですか。
神経をつないで感覚を戻す手術もあります。場所によっては可能な場合もありますが、例えば舌がんで他の部分の組織を持ってきて血管をつないで再建し、さらに神経をつないだとしても「味覚」を感じる受容体が再生することはなく、舌が持つ独特の感覚を戻すことはできません。

―血管はどの部分でも必ずつなぐのですね。とても細かい技術が必要ですね。
そうです。血管をつながないかぎりは移植した組織がその場所で生きて働くことはありません。1ミリ程度の血管をつなぐのですから、さすがに肉眼ではできず、顕微鏡下での手術「マイクロサージャリー」が行われています。起源は紀元前にまで遡るといわれる形成外科の歴史の中でマイクロサージャリーが取り入れられてから再建術は大きく変わりました。

―それ以前は、一旦切り離して持ってくることはできず、舌の再建などはできなかったのですね。
血管を切ってつなぐ方法を取れない方もおられますので、今でも場合によって使い分けています。乳房再建では背中から、舌がんでも大胸筋に血管をつないだまま鎖骨の上から首を通して口の中まで持ってくる方法を取るケースもあります。

―臓器移植チームにも形成外科の先生方が加わっておられるのですか。
神大病院では、マイクロサージャリーで動脈をつなぐ役割を担って肝移植チームに加わっています。

―創傷治療でも手術後と同じような再建術が取り入れられているのですか。
創傷と再建は同じ線上にあり、けがでも手術でもコンセプトは同じで場所によって方法が全く変わってきます。人間の体には一定の決まり事があります。例えば、皮膚の下に皮下脂肪があり、筋肉があり、走っている血管がそれらを養っています。これはお腹、背中、太もも…どこでも同じです。しかし場所によって形や厚み、筋肉の走り方など特性が大きく違います。形成外科医は頭のてっぺんから足の先までたくさんあるバリエーションをおおよそ分かっておかなくてはならず、これが形成外科の難しいところであり、学問としておもしろいところです。

―榊原先生の専門外来の顔面神経麻痺とリンパ浮腫も形成外科の治療範囲なのですか。
ウイルス感染などが原因で発症する顔面神経麻痺については急性期の治療は耳鼻咽喉科の担当ですが、まれに後遺症が残り神経が再生せず顔の筋肉が動きにくくなったり、間違った形で神経が再生したりするケースがあります。また耳下腺がんの手術で顔面神経を切除するケースもあり、神経の移植や他の部分の筋肉を持ってくる手術が必要になる場合には形成外科が協力しています。リンパの流れが悪くなり滞った部分が腫れるリンパ浮腫では、乳がんの手術で腋の下のリンパ節も切除した場合や子宮がん・卵巣がんなどで腹部のリンパ節も切除した場合に多く、乳腺外科や産婦人科をはじめ各診療科で治療に当たっていました。最近はリンパ管を静脈につなぎ新しい通り道を作る手術など、外科的に治療しようという考え方が浸透し、形成外科で引き受け総合的な治療を行っています。

―神大病院形成外科の良いところは?
再建と創傷がうまく融合しているところだと思います。
傷がなかなか治らずに困っている方の最後の砦となり、手術も取り入れながらきれいに治していく。これは誇れるところだと思います。

―神大病院の魅力は?
大学病院には高度な医療を提供する診療科がそろっています。神大病院は各診療科間の垣根が低く、がんの治療においても他科と連携したチーム医療がやりやすく、形成外科の再建術が加わることで患者さんのQOL(生活の質)向上に寄与するだけでなく、がんを確実に切除する治療にも貢献しています。それが患者さんを第一に考える医療につながっていると思います。

榊原先生にしつもん

Q.榊原先生は何故、医学の道を志されたのですか。
A.初めから医学の道を志していたわけではなく、実は私は理学部にいました。当時は再生医療などまだ全くなくて、再生医学が走り始めたころで私は大学院で網膜再生の研究を始めました。そこで、医学ではなく医療の現場で人を助けるために研究を役立てたいと思うようになり、神戸大学医学部の3年次に編入しました。理学部と医学部、大学に合計10年いることになりました(笑)。

Q.形成外科を専門にされた理由は?
A.当時、再生“医学”を再生“医療”に還元する仕事がしたい、と思い形成外科を選択しました。今は心臓や眼に関する再生が脚光を浴びていますが、形成外科の分野でも皮膚や脂肪の再生医学の研究が進み、医療現場でも徐々に広がりつつあります。今後もこの分野に携わっていこうと思っています。もう一つの理由は、マイクロサージャリーに興味を持ち、顕微鏡の下での手術をやりたいという思いがありました。

Q.病院で患者さんに接するにあたって心掛けておられることは?
A.医学部の学生の時、産科の先生が「産科は患者さんが病院から笑顔で帰って行ける科です」と言っておられるのを聞きました。「形成外科も患者さんに笑顔で帰っていただける」と私は思っています。患者さんは病気で困っているから病院に来られます。いろいろ治療を受けてニコニコ笑顔で帰って行ってもらえる。私はそこを目指しています。

Q.大学で学生さんを指導するにあたって心掛けておられることは?
A.私は理学部で、物事を理詰めで考える教育を受けました。自然科学は当たり前のことを「何故だろう?」と考えるところから始まるからです。一方、医学部は、卒業して医師免許を取ったらすぐに現場で医師として仕事をするための実学の場です。私は医学部の学生さんや研修医にも「何故だろう?」と考えてもらうようにしています。些細なことでも、まず「なんで?」と訊きます。考えることから新しいアイデアが生まれ、医学の進歩にもつながります。だから、考えることが楽しいと思ってもらいたいんですが、ちょっと鬱陶しがられているかもしれませんね(笑)。

Q.榊原先生のリフレッシュ法は?
A.リフレッシュ法は家族と生活することです。独身のころは「仕事」と「寝る」しかなかった生活が、その間に「家族」が入ることでリフレッシュできています。子どもとフィールドに出て散策しながら自然観察をしたり、生き物を見たりして「なんでだろう?」と考えています。子どもはハチャメチャで、一緒に行動して考えるのはなかなか大変ですが、私にとってはリフレッシュになっています。

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