1月号
近代化産業遺産"湊川隧道"180日間貯蔵
遂に5年目の蔵出し
「甲辰」に神戸の思いを込める
5年貯蔵プロジェクトの集大成
2020年5月、早駒運輸株式会社、株式会社神戸酒心館、兵庫県、湊川隧道保存友の会が連携協定を締結し「湊川隧道貯蔵酒プロジェクト」がスタート。国の文化遺産である「湊川隧道」という天然のカーヴで熟成され、年間3,000本限定という希少性で注目を集める日本酒「隧ZUI」が誕生した。発足当時、本誌の取材で早駒運輸の渡辺真二社長に「船会社が何故?」と尋ねたところ「湊川が運ぶ大量の土砂が海へと流れ込み、遠浅の海に変貌していたら、優れた機能を持つ神戸港はなく、我が社は135年の歴史もなかったでしょう。『港を守ってくれた湊川隧道に感謝の意を表したい』と経緯を熱く語った。同社ではかねてより湊川隧道保存友の会に賛助し、毎月の「一般公開」での運営をはじめ、年に一度の「通り抜け」では、「隧ZUI」の売り出しを行うなど、兵庫の歴史的資源を守り、後世へと繋いでゆく上で重要な地域貢献活動を担っている。売上の一部は湊川隧道の保存に活用されている。そんな熱い想いを紡いだ世界初とも言える国の遺産を活用した貯蔵プロジェクトがついに5年の節目を迎えた。
新たなサスティナブルな取り組み
近代土木技術の英知を結集した日本初の河川トンネル「湊川隧道」は2019年に国の有形文化財に登録され、「天然のカーヴ」と称されている。人工的な空調や温度管理は一切不要。CO2を排出せず平均気温約15度という安定した環境の中、180日間熟成させて日本酒「隧ZUI」は蔵出しされる。昨今、そのサスティナブルな取り組みは酒造りの域を超え時代の先端を行く活動として注目を集めている。
意匠に込めた想い
この希少性の高い日本酒には、初代より神戸港を彷彿とさせる同社オリジナル錨マークを採用し、昨年11月に発売された2024年ボトルには日本古来より高貴な色として扱われてきた龍胆色を採用している。そして揮毫されている「甲辰」(干支)には優勢を意味する「甲」と水や海の神を象徴する「辰」の組み合わせで、めでたい兆しの辰年に神戸港から5代目「隧ZUI」が、地域に愛され、世界へと羽ばたいていくように想いを込めた。「隧ZUI」を揮毫したHAYAKOMAブランディングプロデューサーの渡邉美香さんにお話を伺った。「ここまで熟成されてきた隧プロジェクトが新たな局面を迎えます。日本の歴史上比類なき作陶家の一人、辻村 史朗氏が揮毫し、京都「かみ添」嘉戸 浩氏による唐紙を表裏面使用して表具師・藤田幸生氏が仕立てた“六曲一双”の“干支”の屏風が間も無く完成となり、次なる隧の誕生へと動き出しています。日本が誇る⼟⽊遺産を神戸の銘酒・福寿の『隧』と我々『早駒』、そして京都の伝統文化を支える方々とのご縁の邂逅により、今後更なる壮大な夢のプロジェクトになり得るのだと確信しています。世界でも類を見ないサスティナブルな取り組みとしてこれからも挑んでいきます。」
次なる「隧ZUI」の物語が始まろうとしている。
http://www.kobe-seabus.com/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000049.000127012.html
https://www.hayakoma.com/topics/news/602/
辻村 史朗(つじむら しろう)
奈良の山中で大自然の懐に包まれ作陶一筋に打ち込む。自然釉の深い味わいと、存在感のある力強い作風は多くの愛好家の支持を受け、海外でも高い評価を得る日本を代表する作陶家。米国・メトロポリタンやボストン、ブルックリンなど名だたる美術館に作品が所蔵されている。