10月号
未来を駆ける神戸の新風 VOL.15|神戸のターニングポイントに民間財団として一石を投じたい!
今年、40周年を迎えた公益財団法人中谷医工計測技術振興財団(以下、中谷財団)。先日、若手研究者と独創的な研究に光を当てる「神戸賞」を創設し、その第1回授賞式がポートピアホールで開催された。
この中谷財団は、これまで「表彰事業」と「助成事業」の2つの事業を柱に日本の医工計測技術分野を支えてきた。
そして今回、さらに領域を広げ、バイオメディカルエンジニアリング分野における学術賞として「神戸賞」を創設。
今回は、新アワード創設の想いと、医療テクノロジーを支えてきた財団が、医療産業都市である神戸の未来をどう展望しているのかを、代表理事の家次恒氏に伺った。
テーマは、日本の技術をどう発展させるのか
中谷財団は設立40周年の節目ですが、まずは、発足の経緯をお聞かせ下さい。
当財団は、1984年、東亞医用電子株式会社(現シスメックス株式会社)の創業者の故中谷太郎が「財団法人 中谷電子計測技術振興財団」として設立しました。
中谷は、日本の電子計測技術を発展させたいという思いがあり、日本の電子計測技術の発展に貢献していこうと考えたのが発足の経緯です。
やはり「技術」というのは日本の売りですよね。この強みをさらに高めるためにどうすべきか?新しい技術をどういうかたちでうまく導入して花を咲かせるか?そんな課題意識を中谷から引き継ぎ、「計測分野にアワードを設けよう」ということで、医工計測技術における技術開発に顕著な業績をあげた研究者に対して贈る「中谷賞」を創設し、「表彰事業」と「助成事業」の2本柱を軸に、40年間やってきました。
今年の6月に、新設した「神戸賞」の授賞式がありました。こちらについて改めてお聞かせ下さい。
これまで、医工計測分野に特化した表彰をしてきたわけですが、もう少し大きなアワードを作れないか?我々が育ってきた神戸の名を冠した賞を作ろう!というところから、今後、日本がリードしていく分野として注目している「BME(Bio Medical Engineering)分野~生命科学と理工学の融合境界領域〜」における学術賞を設けました。
いま日本は高齢化が進み、ヘルスケア分野の重要度が高まっています。その中で、神戸はご承知の通り、医療産業都市として医療にフォーカスしている街でもありますので、“神戸発”の何かを作りたいという想いもあり、賞を新設しました。
授賞式の様子は、本誌の7月号で記事にさせて頂きましたが、東京で式典を行っても良さそうな印象を受けました(笑)。あえて神戸にこだわる理由はありますか?
こういったアワードは、地域の特徴をうまく出せるようになっていることが大事だと思います。
そこで申しますと、神戸賞は、医療産業都市としてやっていっている神戸の街と相性が良い内容ですし、これから神戸は、バイオメディカルニーズに応えていくんだ、という未来へ向かう方針を我々も発信していきたいというのが、神戸にこだわる理由です。
これからの時代はヘルスケアが大事なテーマですので、そういった分野を神戸の“売り”の一つにできたら良いな、と思っています。
医療産業都市というキーワードが出てきました。
例えば、メディカルツーリズムというのが注目されてきていますが、これからの時代は、日本の医療技術の高さを世界に発信していかなければいけません。その時に、空港に近接して先端医療の集積地がある、というのはメリットが大きいですよね。そんな点でも、神戸の医療産業都市には期待しています。
独創力を活かし、想像力をもっと掻き立てよ!
神戸賞は、「日本を元気にする」ことを理念に「独創に光を。」をスローガンに掲げられていますが、この言葉に込めた想いをお聞かせ下さい。
やっぱり日本は先端的なことをやらないといけない。新しいところをどういう形でチャレンジしていけるか、というところが何よりも大事で、日本の技術はこれまで、新たな創造力で切り拓いてきました。我々としては、そこをサポートしていきたいと考えています。
日本が元気を取り戻すためには、新しい技術が出てくるべきであるし、それをどう使っていくかがとても重要です。これまでの日本は、エレクトロニクスの分野で発展成長してきました。この次は何かと考えると、バイオメディカルの分野が非常に大事な要素になると思います。そこで成功をおさめていくには、独創力をもっと活かし、想像力をもっと掻き立てていかなければならない。なぜなら、そこが日本の強みなのだから。そして、それを産業にして経済成長していこうじゃないか、というメッセージをスローガンには込めました。
いまが神戸の転換点!キーワードはヘルスケア!
最後に、神戸の未来に期待するところをお聞かせ下さい。
一般的な神戸のイメージは、港町があって、重厚長大産業で発展してきた街だと思います。それを次の段階に持っていきたいですよね。空港もこれから国際化を控えていますし、これまでと違った形で発展していって欲しい。産業の変遷ってあると思いますが、神戸は今がそのターニングポイントだと思うんですよね。その中でキーワードになるのが「ヘルスケア分野」。神戸に来たらこういうことで元気になるみたいなことがあったらいいなと思うし、ヘルスケアは神戸に適している産業だと思っているので、そんな新しい産業が生み出す、神戸の未来に大変期待しています。
公益財団法人 中谷医工
計測技術振興財団 代表理事
家次 恒さん
1949年大阪府生まれ。京都大学経済学部卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。86年東亜医用電子(現シスメックス)に入社し、取締役として社内改革を進め、96年社長に就任。グローバル企業に育て上げる。2023年会長兼グループCEO。16年より2期神戸商工会議所会頭。2013年より中谷財団代表理事。
公益財団法人 中谷医工
計測技術振興財団
東京都品川区大崎1丁目2番2号
アートヴィレッジ大崎 セントラルタワー8階
https://www.nakatani-foundation.jp/
〈プロフィール〉
蔭岡翔(かげおか しょう)
放送作家・脚本家
神戸市東灘区在住。関西の情報番組や経済番組などを企画・構成。日本放送作家協会関西支部監事。日本脚本家連盟関西地区総代
〈取材を終えて〉
株式相場の世界に「三役好転」という買いサインを示す言葉があるそうだ。
神戸は、「医療産業都市」という枠組みが整い、前回取材した神戸大学のような優秀な地元の「教育機関」が新たな医療工学の人材育成に力を入れ、そういった所で育った先端的なヘルスケアやメディカル分野の技術開発を支援している「中谷財団」がある。
家次氏が目指す、神戸から“新しい医療技術の創出で日本に元気を取り戻す”社会の実現には、まさに「三役好転」土壌が用意されているのではないだろうか?神戸が日本再生の鍵となるなら、これほどワクワクすることはない。