2024年
7月号
7月号
竹中大工道具館 邂逅―時空を超えて|第十回|木のふところを読む ― 前挽大鋸と木挽の仕事
荒加工された原木を挽き、角材や板などの材を作り出す職人を木挽と言います。その腕のみせどころは、木の内部の状態を読み、木目や柾目の切れがない調和のとれた目を効率よく生み出すことです。この見極めで木の価値が変わり、ものによっては数百万の値段の違いがでることもあります。大きさも育った環境も1本ずつ異なる木個々の性格を読み通す眼力がなくてはできない仕事です。その難しさと責任の重さから「墨掛け十年、読み一生」ともいわれます。
前挽大鋸と呼ばれる巨大な鋸は、木挽の代表的な道具です。その巨大な鋸身全体が定規の役割を果たし、まっすぐ平らに挽き進める役割を果たします。大きな歯を持ちますが、実際に木を削るのは歯先1mmほどの「チョンガケ」と呼ばれる先端で、そのほかの歯は屑くずをはきだすための溝として機能します。鋸身の前方部が斜めに切り取られているのは、大木を両側から二人で挽いたときにぶつからない工夫です。ふつうの前挽で3〜4kg程度の重量があり、「への字」に曲がった柄が、テコの原理で腕の力を効率よく刃へと伝えます。
今日では機械製材に押され、滅多に見ることはできなくなった木挽の卓越した手仕事。この巨大な道具にも、木を無駄なく効率的に製材する多様な知恵が詰まっています。
(学芸員・舟橋知生)
竹中大工道具館
TAKENAKA CARPENTRY TOOLS MUSEUM
神戸市中央区熊内町7-5-1
Tel.078-242-0216
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)
開館時間:9:30~16:30
(入館は16:00まで)
https://www.dougukan.jp/