4月号
映画「i ai(アイアイ)」が神戸に帰ってきた|シネリーブル神戸で公開、そして全国へ
オール兵庫ロケで制作された映画 「i ai(アイアイ)」。神戸新開地「パルシネマしんこうえん」での1日限りの公開から約2年の月日を経て、神戸に帰ってきた。3月9日マヒトゥ・ザ・ピーポー監督、神戸出身の森山未來さんを迎え「シネリーブル神戸」で舞台挨拶が開催された。
映像の中に散りばめられた心に刺さる言葉たち
何も映し出さない真っ白なスクリーンを前に「オレらが見てる今がさ、誰かのファンタジーやったらどないする?」。ヒー兄(森山未來)の言葉を「そんなわけないやん」と笑いとばす主人公・コウ(富田健太郎)。夢の中の映画館のシーンから映像が始まる。ギターでEコードの鳴らし方を教え「これで世界変わるんやで、一瞬やで」と言い、「音が良くなるんや」とギターをコンロの火で焼くヒー兄。突飛な行動に翻弄され、理解できない言葉のシャワーを浴びて「何ゆうてるかわからへん」と言いながら成長してくコウ。応募総数約3500人の中から主役に抜擢された富田自身の成長とオーバーラップする。映像の背景に常にあるのは、抜け感と湿気が溜まった閉塞感を併せ持つ瀬戸内の「空」と「海」、そして雑多な神戸の街。この映画には欠かせない伏線になっている。GEZANのフロントマン・マヒトゥさんの初監督作品。面識もなく、演奏を聴いたこともなかったという森山さん。突然のオファーを受け、出演を承諾する条件に出したのは「明石・神戸でのオールロケ」だった。もう一つの決め手となったのはマヒトゥ監督が脚本の中に紡いだ〝言葉たち〟。「中でも印象に残っている言葉は?」という問いに、「『お別れなんてこの世界にはないのさ。出会い続けろ』。僕も使わせていただいています(笑)」と森山さんは即座に答えてくれた。
〝真っ赤〟な二人の舞台挨拶
プロデューサーの宮田幸太郎さん(スタジオブルー)を進行役に開催された舞台挨拶。マヒトゥ・ザ・ピーポー監督と森山未來さんが『i ai』キーカラー〝真っ赤〟に身を包んで登場した。「お帰りなさい」と迎えられた二人は「やっと帰って来られて嬉しい」「ただいま」と答えた。
〝映画館で映画を観る〟「i ai」はこの行為にマッチした作品
―上映を終えた今の手ごたえは?
マヒトゥ 「手ごたえ」ですか?うーん、人生で一度も発したことのない言葉だな。「気持ち」はありますよ、嬉しい。以上です。
未來 いろんな登場人物がいて、GEZANの自伝的な物語でもあり、その中にマヒトゥの世界観が貫かれている。ヒー兄やコウが喋っていても、その背後にマヒトゥがいる。そんな〝ナマ〟な雰囲気の中でずっと走っていました。「みんなで創った」といういい時間で、とても良い経験だったと改めて今、思っています。
―『i ai』はどんな映画ですか。
未來 観る人演じる人が空間を共有する舞台と違って、スクリーンに向かい、たとえ誰かと観ているとしても、自分と作品だけが向き合うというのが映画です。最後、コウが独白するシーンがこの作品のインタラクションを象徴しています。〝映画館で映画を観る〟という行為に非常にマッチした映画だと思います。
―神戸出身の未來さん。オール兵庫ロケへの思いは?
未來 海にも種類があると思うんですよね。抜けが良くてクリアな太平洋、もうちょっと白んでくる日本海、淡路島や四国で抜けが遮られ湿気が溜まり水平線や地平線が霞む瀬戸内海。明石から立ち上がってきたGEZANフロントマンのマヒトゥが瀬戸内海を想定してこの作品を書いた。その景色が切り取れないのなら意味がないと思っていました。だから「他の場所で撮るのなら僕はやらない」と言ったんです。結果、やれて良かった(笑)。
マヒトゥ うん、海については未來さんがおっしゃる通りですね。生きていくということには「傷」が含まれていると思うんです。インターネットの住人ではない私たちは完璧ではない。普通に生きているだけでもいろんなものを自然に蓄え、混乱を積み重ねています。そんなことを許してくれるまち、いろんな人がいろんなカタチでいられる場所が僕は好きです。そんな匂いがちゃんとある場所で撮影できたことはとても嬉しい。
―通常はスタッフだけで回るロケハンにも未來さんは一緒に来てくれましたね、水着姿の半裸で魚をぶら下げて(笑)。
未來 僕も現場を見たいと思って行ったんですが、明確な場所が分からなくてウロウロしていたらデッカイ魚が捨てられてて…見ていたら「いる?」って聞かれて、「じゃあ」って貰ってぶら下げて…(笑)。僕が昔から知っている長い松江海岸と違って江井ヶ島は入り江っぽくて、初めての経験でした。映画の中でスタジオとして使った元旅館の赤い建物を見つけたのは大きかったですね。
マヒトゥ 海の匂いや色味、そして風…そういうものは代えが利きません。映っていないときでもそこにあり、そこにいる人たちは映画になるような特別な風景の中にずっといて生活している。うらやましいなあという気持ちがあります。
―最後に皆さんに向けてメッセージを!
未來 神戸と東京から上映が始まり、これから全国へ広がっていきます。『i ai』がどんどん広がり、つながっていくためには口コミが大事です。皆さんの口コミをよろしくお願いします。
マヒトゥ この物語の真ん中にある「死」が何かの終わりではなく、カタチを変えて手渡されて続いていく話だと思っています。自分の中にある大切なモノを手渡して物語が続いていったらいいなと思っています。