4月号
『あまろっく』 人生に起こることは何でも楽しまな!
映画『あまろっく』監督 中村 和宏 さん
2018年の台風をきっかけに“尼ロック”を知った中村和宏さん。“街を水害から守る”という大きな役割を物言わず果たす姿に、家族にとっての隠れた英雄“親父”のイメージが重なったことが、この映画の着想のきっかけとなったと話されます。
尼崎市というおおらかな街だからこそ描くことができた、“噛み合わない” 家族の物語。原案・企画・監督を務めた中村さんにお話を伺いました。
2024年4月12日(金) 兵庫県先行、4月19日(金)より全国公開!
タイトルは、尼崎にある”尼ロック“なんですね。
尼崎出身なのに6年前に知りました。表立ってPRしない完全裏方なんですけど、“街を守る”という、ものすごい仕事をしてるんです。家族でいうと親父と思ったことが、僕の中でのこの映画のはじまりです。
僕は1973年生まれなので、イメージしてるのは昔の親父というべきかな。親父だけじゃないですけどね、家族を守るのは。そこのあたりは描きたかったことの一つでもあります。
若き日のお父さん役は松尾諭さん、後半は笑福亭鶴瓶さん。
町工場の経営者ですけど働いてる気配がない。街の中をウロウロして、あちこちでおしゃべりして。似合うんですよね、お二人とも(笑)。そんな人も怪しまれず、おおらかに受け入れてもらえるのが、尼崎という街です。この街なら面白い家族の物語が作れると思いました。
高学歴でエリートだった娘がニートのような暮らしを始めます。演じた江口のりこさんとの親子の会話が自然でした。
関西のどこにでもいる親子です。優秀なのにこじらせてる江口さん、いいでしょ(笑)。演出してどうこうなる“間”じゃない。
今回のキャストに関して僕の唯一のわがままが、“ネイティブで作りたい”だったんです。関西の家族関係って、言葉で説明できない、関西人じゃないとわからない空気感があると思っているので。中条さん、江口さんが引き受けてくれて、鶴瓶さんが引き受けてくれて、中村ゆりさん、中林大樹さん、駿河太郎さん、佐川満男さん、久保田磨希さんと関西人の役者が揃ってきたときに「これは面白くなる!」と思いました。
W主演のもう1人、中条あやみさんの関西弁には驚きました。
2時間のフルスロットル(笑)。大阪・阿倍野区出身と聞いて相談に行ったんです。僕が関西人と知ると中条さん、関西弁で話し始めて。すぐに「この関西弁で演じて欲しい」と思いました。東京ガールズコレクションのランウェイをかっこよく歩く中条さんが、町工場や家の台所で関西弁でポンポンと話す。僕も大好き(笑)。
撮影の現場スタッフもほとんどが関西人でしたから、カメラが回っていないところでの会話もほんと面白かったです。
家族には悲しい出来事も起こります。お父さん以外の”あまろっく“な人たちが見えてきますね。
悲しくても辛くても生きていかなきゃいけないですからね。
関西の人間の“生きる強さ”を描くには、阪神・淡路大震災の経験に触れざるを得ませんでした。それまで僕は避けてきたんです。物語にすることではないと思っていましたから。でも約30年後の今、震災が60代の竜太郎の人格形成に影響を与えたことは間違いない。切り離せないと思い直しました。震災を経験した1人としてすごく考えたところです。
「人生に起こることは何でも楽しまな!」という父の台詞に重みが出ますね。
震災のあった神戸で、被災者の方が仰ってた言葉です。あれから30年、50代になって、最近やっと僕自身が「楽しまな!」と思えるようになってきました。この映画のテーマのひとつですね。
ところで、主題歌『アルカセ』は、ユニコーンの書き下ろし!
それ、皆さんが言う(笑)。「えっ!ユニコーン!!」って。僕も大好きですし、まわりには中高生の時にコピーバンドやってたって人も多い。僕ら世代の憧れのバンドの一つ。最高です。この曲は、きっと映画を盛り上げ助けてくれます。観終わったあとは、幸せな気持ちでご飯食べにとか、行ってほしいですね。
☆観客賞を受賞しました☆
『あまろっく』は3月、大阪アジアン映画祭にて初上映され、観客賞を受賞しました!上映作品の観客の投票による得点が、上映作品の中で最高の作品に授与される賞です。映画祭は英語字幕版上映のため、中村監督は「関西弁の会話の面白さが伝わるかな」と心配していましたが(※取材は上映前でした)、会場はおおいに盛り上がりました。アジア各国の映画ファンからの太鼓判を得て、4月19日ロードショーです!
中村 和宏(なかむら かずひろ)
1973年生まれ。尼崎市出身。『女子高生探偵あいちゃん』(2018年)で映画初監督、『酔うと化け物になる父がつらい』(2020年)でチーフプロデューサーを務める。ドラマの監督作品としてMBS『メモリーオブラブ』『家族善哉』『京都へおこしやす』、KTV『望月』『彼女を待ちながら』などがある。