4月号
⊘ 物語が始まる ⊘THE STORY BEGINS – vol.41 女優 浅野ゆう子さん
新作の小説や映画に新譜…。これら創作物が、漫然とこの世に生まれることはない。いずれも創作者たちが大切に温め蓄えてきたアイデアや知識を駆使し、紡ぎ出された想像力の結晶だ。「新たな物語が始まる瞬間を見てみたい」。そんな好奇心の赴くままに創作秘話を聞きにゆこう。第41回は、数々の人気トレンディードラマやNHK連続テレビ小説、NHK大河などに出演し人気女優として一世を風靡。近年は舞台に力を注ぐ女優、浅野ゆう子さん。
文・戸津井 康之
撮影・服部プロセス
舞台で演じる充実感…
一期一会に懸ける決意
女子校の校長役に挑戦
「次の新作の舞台で演じるのは女子校の校長先生役。これまでいろいろな役を演じさせていただきましたが、校長は2度目。生徒たちを厳しく指導するのですが、その奥には深い愛情を秘めている…そんな校長を演じられれば、と思っています」
4月6日、福岡・博多座で開幕(21日まで)し、26~28日に大阪・新歌舞伎座で開催される舞台「新生!熱血ブラバン少女。」で挑戦する〝難役〟について、浅野ゆう子さんは、こんな演技プランを練っていた。
博多座開場25周年記念作品。九州・福岡にある精華女子高等学校の現役吹奏楽部員が演じる、西北女子学園吹奏楽部が舞台だ。全国大会で何度も優勝してきた名門校だが、部員数の減少などでかつての栄光は失われつつあった。このピンチを救うためにお笑い芸人、博多華丸さん演じるスポーツインストラクターの城門輝勝が同部のコーチに就任。ところが、浅野ゆう子さん演じる校長は吹奏楽部の廃部を指示。抵抗する城門や部員に対し、吹奏楽部存続のための厳しい条件を出していく…。
「華丸さんとは初共演。テレビで、才能豊かな方だなと思って見ていました。一緒に演じさせていただくことが今からとても楽しみで…」
城門や部員たちにつらく当たる敵役(かたきやく)のような存在。そんな校長を演じることについて、「私はこれまでヒール役を演じることが結構多かったですからね」と笑いながら、「実はヒール役を演じることが好き。今回、登場するキャラクターはみんないい人ばかり。せっかく私が演じさせていただくのだから、華丸さんをいじめたいと思っていますよ(笑)」と意気込みを語った。
西北女子学園吹奏楽部のモデルは、福岡県の精華女子高等学校吹奏楽部だ。全国の吹奏楽コンクールの常勝校で、今回の舞台では、俳優たちと一緒に現役部員たちが、この舞台のために作られたオリジナルの曲を演奏するという。
「現役部員の女子高生たちとの共演は本当に楽しみ。約50人の演奏は大迫力で、私自身、舞台の上で、彼女たちから感動とエネルギーを感じとりたいと思っています」
神戸から上京しデビュー
浅野さんは神戸市の出身。「13歳でデビューしましたが、神戸には中学1年生の頃までいて、その後、東京の中学校へ転校。幼いころ、母が連れて行ってくれた神戸まつりが印象に残っていますね。オープンカーに〝ミス神戸〟の方が乗って沿道へ向かって手を振っていたら〝あなたもいつか、あのオープンカーに乗るのよ…〟なんて言われていました(笑)。母は宝塚歌劇も大好きで、〝あなた、歌劇団へ入るのよ〟ともいわれていました」と笑顔で振り返る。
今回の舞台で女子高生たちの青春が描かれることに触れ、「私が東京の堀越中学校へ転校したその翌年。堀越高校が甲子園に出場したんです。堀越中学の生徒も先輩たちを応援するためにチアガールとして甲子園に駆け付けたのですが、そのとき、私は仕事が入っていて、みんなと一緒に行けなかった。今、改めて、あのとき甲子園のスタンドで応援したかったな、と思います」としみじみと語った。
1974年のデビュー以来、たちまちアイドル歌手として活躍。映画やドラマ出演も相次ぎ、1988年、ドラマ『君の瞳をタイホする!』『抱きしめたい!』など話題作への出演が相次ぎ〝トレンディードラマの女王〟と呼ばれるように。
また、『抱きしめたい!』で共演した浅野温子さんと2人で〝W浅野〟と呼ばれ、髪型やファッションなどを真似する女性が急増し、社会現象ともなった。
ところが、そんななか、ある大先輩の俳優からかけられた言葉が女優人生を変える転機となる。
「ドラマへの出演で忙しかった時期でした。森繁久彌さんからこう言われたんです。『ゆう子、お前は〝紙芝居(映像)〟ばかりに出ていないで、舞台に出なさい』と」
ドラマへの出演依頼は途絶えず〝トレンディードラマの女王〟と呼ばれている自負もあった。
だから、「そういう森繁先生だって、ずっとドラマや映画に出ていらっしゃるのに…。なんて最初は思っていたんですよ(笑)」
しかし、「いざ舞台に立ってみて、明らかに演技に対する考え方がこれまでと変わっていた」と素直に打ち明ける。
「森繁先生の仰る通りでした。その頃舞台で演じてみて、初めてその魅力を知ることができたような気がしました。それからですね。これからは、1年に1作は舞台に立ちたい。と、そう決めました」
尽きない舞台への情熱
そんな大きな転機となった舞台の魅力とは?
「公演は毎回、違うお客さまで、当然、客席の反応は毎回違いますし、俳優の演じ方もお客さまに左右されることも多い。稽古に1ヶ月を費やし、公演もロングランで上演されます。ひとつの作品を、長期間じっくりと時間をかけながら、多くの俳優やスタッフの方たちと力を合わせて作りあげていく舞台というお仕事に俳優として、とてもやり甲斐を感じます」
もちろんドラマや映画など映像で演じる芝居にもそれぞれの魅力があるという。だが、「演じた瞬間、お客さまの反応を間近に感じることのできる舞台での充実感は格別です」とも。
今年、デビュー50周年の節目を迎えた。半世紀もの間、エンターテインメントの世界で第一線に立ち続けてきた。一昨年夏にはコロナ禍を乗り越え、舞台『ゲゲゲの鬼太郎』で、妖怪の砂かけばばあの役を演じて話題を集めるなど、60代に入っても演技の幅を広げ続け、芝居に懸ける情熱が色褪せることはない。
この若さにバイタリティー、原動力はいったいどこから生まれてくるのだろうか?そう聞くと、しばらく考えた後、こう口を開いた。
「生意気かもしれませんが、誰しも、みんな人生の中で、いくつものチャンスが巡ってきていると思うんです。ただ、そのチャンスをつかみ取ることができているか…。チャンスがめぐってくることは、もちろん運も大きいとは思いますが、この運をつくり出しているのは、結局は自分の日頃の努力だとも思うんです」
現在、4月の本番の舞台に向けて、稽古に余念がない。新歌舞伎座に立つのは2021年の舞台『魔界転生』以来3年ぶりで地元・関西での公演に力が入る。
「高校生をはじめ、幅広い年齢層のキャストが出演しますので、どんな世代の方に観ていただいても楽しめる内容だと思います。青春を謳歌する素晴らしさ、その感動を直にお届けできたら」
この日の取材の冒頭、浅野さんが語った言葉が強く印象に残った。
今年の元旦に起きた能登半島大震災に触れ、「私たちは、いつ何が起きてもおかしくない世の中で生きていることを改めて実感し、今、一期一会の大切さをより、かみしめながら生きています。この取材も同じです。一期一会かもしれませんね」と謙虚に語る表情は優しいが、瞳には力が漲っていた。
一期一会は舞台も同じという。
「これが最後になるかもしれない」そう思ったら一切、妥協はできない。50年の節目は、まだほんの通過点に過ぎない。
浅野ゆう子(あさの ゆうこ)
兵庫県出身。1974年に歌手デビューし、その後ドラマで女優デビュー。1980年代以降は、ドラマ『抱きしめたい!』(1988年)、『ハートに火をつけて!』(1989年)、『恋のパラダイス』(1990年)、『都合のいい女』(1993年)などに出演し次々とヒット。主演映画『藏』(1996年)では第19回日本アカデミー最優秀主演女優賞を受賞した。近年出演の舞台は、『魔界転生』(2018年、2021年)、『細雪』(2019年)、『ゲゲゲの鬼太郎』(2022年)など。
『新生!熱血ブラバン少女。』
【福岡公演】
■日時:4月6日(土)〜21日(日)
■会場:博多座
https://www.hakataza.co.jp/lineup/202404/buraban/index.php
【大阪公演】
■日時:4月26日(金)~28日(日)
■会場:新歌舞伎座
https://www.shinkabukiza.co.jp/perf_info/20240426.html
■料金:S席 12,500円、A席 9,000円、B席 5,000円(税込)
■出演:博多華丸
紅ゆずる、鈴木梨央/星野真里
斉藤優(パラシュート部隊)、小林大介(花組芝居)
森保まどか、上西怜(NMB48)、神田朝香、古川あかり
宇梶剛士、浅野ゆう子
精華女子高等学校吹奏楽部
■作:G2 ■演出:加納幸和(花組芝居)
■企画・制作:博多座 https://www.hakataza.co.jp/lineup/202404/buraban/index.php
■主催:新歌舞伎座/ぴあ株式会社/チケットぴあ九州株式会社
●新歌舞伎座テレホン予約センター 06-7730-2222(10時〜16時)
●新歌舞伎座ネットチケット https://shinkabukiza.pia.jp/
■特設HP:https://www.braban-girl.jp/