4月号
竹中大工道具館 邂逅―時空を超えて|第七回|大工道具鍛冶が込めた想い ― 千代鶴是秀の切出小刀
木の細かな細工などに使われる小型刃物の一つ「切出小刀」。カッターナイフが普及する以前、大工、建具、木工、竹工、接木などの職人から、子供の竹とんぼ作りなどの工作をはじめ家庭用に至るまで、さまざまな用途で使われた身近な刃物でした。今日でも竹工や木工の伝統工芸分野の職人はよく使う手道具の一つです。短柵の一辺を斜めに切ったような単純明快な形で、先端で物が切れれば十分な刃物という性格から製作上・使用上の制約が少なく、手がける鍛治によって鉄の厚み・刃の角度・形状もさまざまです。
大工道具鍛冶にとって切出小刀は、厳格な決まりがある鋸、鑿、鉋などに比べ、使用上の制限が少ないことから、己の自由な発想を盛り込むことができる数少ない刃物といえます。その可能性をいち早く見出した人物が、大工道具を芸術の域まで昇華させた「不世出の鍛冶」とされる千代鶴是秀(1874~1957)です。千代鶴是秀は四十代になる大正から昭和初期にかけてデザイン性がある切出小刀を比較的たくさん手がけるようになりました。そして戦後の十年間、魚、鳥、竹、月、筆、犬、瓢、ヤリガンナ、薙刀など造形豊かな切出小刀を世に出しています。その背景には大工や建具などの職人の枠を超え、朝倉文夫らの彫刻家や工芸家、茶人など芸術家と呼ばれる人々との交流が影響しているといわれています。
当館の常設展では千代鶴是秀の切出小刀4点を展示しています。それぞれ表面仕上げの趣が異なっています。中でも「天爵」は「七十八翁長運斎千代鶴是秀」と銘を切り、デザインのモチーフがヤリガンナであることを木箱の裏書に明記しています。これらは千代鶴是秀の鍛治としての高い技術と切出小刀に対する並々ならぬ制作意欲と研究心を物語っています。
(学芸員・崔ゴウン)
竹中大工道具館
TAKENAKA CARPENTRY TOOLS MUSEUM
神戸市中央区熊内町7-5-1
Tel.078-242-0216
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)
開館時間:9:30~16:30
(入館は16:00まで)
https://www.dougukan.jp/