11月号
竹中大工道具館 邂逅―時空を超えて|第二回|
製材技術の大革新 ―石峯寺の大鋸(しゃくぶじのおが)
「歴史の旅へ」コーナー中央に展示されている巨大な製材鋸「大鋸」。わが国の製材技術に革新をもたらした歴史上とても重要な大工道具です。展示品の大鋸は神戸市淡河町にある古刹石峯寺の伝世品をモデルに製作されたもの。長さ二メートルを超える国内最大級の大鋸です。
古来より森林資源に恵まれた日本では、千年以上ものあいだ木を割って板や角材をつくる打割製材がおこなわれていました。打割製材には木目の通った大木が必要でしたが、中世ごろから良材が枯渇しはじめ、室町時代に中国から大鋸が導入されました。大鋸の普及によって、硬い木や木目がねじれた木など多様な樹種が利用できるようになり、薄い板や細い角材をつくるのが容易になりました。
このような中世後半の製材技術の変化と台鉋の登場が、建築のかたちに大きな影響を与えたと考えられています。それまでは太く大きな部材を使う建築が主流でしたが、細く薄い材を多用する繊細な建築が多くなっていきました。
大鋸は木や竹でつくられた工の字型の枠に刃と弦をつけた単純な構造で、弦をねじると支柱の反対側の刃がピンと張るしくみです。解体して持ち運ぶことができ、また簡単に組み立てられます。また、大鋸の刃の向きには中央から二方向に分かれたかたちと一定方向に向いたかたちの二種類があります。石峯寺の大鋸は前者の振り分け型で、二人で交互に引きあって使用します。
十六世紀になると一人で使える前挽大鋸が登場し、やがて大鋸にとって代わりました。道具としての大鋸は姿を消しても、地名や「おが屑」などの言葉にその名残がみられます。
(学芸員・植村昌子)
竹中大工道具館
TAKENAKA CARPENTRY TOOLS MUSEUM
神戸市中央区熊内町7-5-1
Tel.078-242-0216
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)
開館時間:9:30~16:30
(入館は16:00まで)
https://www.dougukan.jp/