11月号
Movie and CARS|タッカー 48
映画:『タッカー』1988年 アメリカ(110分)フランシス・コッポラ監督
登場車両:タッカー 48
TUCKER 48
文・株式会社マースト 代表取締役社長 湊 善行
1945年、軍需工場を経営していたプレストン・タッカーは、第二次世界大戦終戦を機に新時代にふさわしい、速くて美しく、しかも安全性を追求した乗用車の開発製造に乗り出した。家族や仲間とともに資金繰りに奔走し、紆余曲折の末にプロトタイプを完成させ、世界一の広さを誇る工場を手に入れ、先進技術と斬新なデザイン、そして巧みな広告によりタッカー・トーピードは話題となる。計画はいよいよ軌道に乗るかに思えたのだが、ビッグスリー(フォード・GM・クライスラー)と保守的な政財界の横槍や妨害により、タッカーは「ありもしない車を売ろうとした詐欺師」に仕立て上げられ、期日までに50台の新車を製造しなければ有罪になることに。法廷に立たされたタッカーが最終弁論で陪審員席に向かって、自らの信じるアメリカの自由・正義・未来を訴え「もし大企業や政界が斬新な発想を持った個人を潰したなら、進歩の道を閉ざしたばかりか自由という理念を破壊することになる。こういう理不尽を許せば、いつか我々は世界ナンバーワンから落ち、敗戦国から工業製品を買うことになる」と訴える場面は心を熱くさせる。タッカーの熱意ある発言は陪審員の心を打ち無罪を勝ち取る。法廷の前に新車のタッカー・トーピードが並び、颯爽と乗り込むタッカーと仲間達。だが、同時にタッカーの工場は連邦政府により閉鎖され、夢の車タッカー・トーピードはこの50台(プロトタイプを含め51台)の他に作られることはなかった。コッポラは夢を追うタッカーに自身が重なり、この実話を見事に映像化させた。コッポラ監督は宣伝で来日した際に強く語った「たとえ、それ自体が成功しなくても、そこにある発想の芽はいつか認められる。だから、常に創造的なことをめざすべきだ」と。