8月号
KOBEの本棚|『終わらない戦争』~復員船「鳳翔」“終戦”までの長き航路~ 著・戸津井康之
『終わらない戦争』~復員船「鳳翔」“終戦”までの長き航路~
著・戸津井康之 二見書房 1,980円(税込)
戦争の残虐さ、不条理さ、虚しさ、その真実を後世に伝える世代が年々減りつつある。本書では、海軍二等兵曹・山本重光さんの取材を通して、終戦後、世界各地に取り残された日本の兵士や民間人の救出にあたった山本さんはじめ名もなき英雄、戦後空母から復員船となって活躍した「鳳翔」について綴られている。著者は本誌の連載でお馴染みの戸津井康之氏。
1945年8月15日正午、山本さんは、空母「鳳翔」艦内の通信室で、玉音放送を聞きながら、日本の敗戦を知った。「鳳翔」は、日本初の空母として第一次満州事変から、第二次世界大戦の真珠湾攻撃、ミッドウェー海戦への参戦、呉軍港空襲に遭遇しながらほぼ無傷のままで終戦を迎えた。山本さんは、故郷に帰ることも許されていた。しかし、山本さんは、「日本のために自分の力が、まだ、必要とされるなら」と復員船になった「鳳翔」に乗り込み、1年以上にも及ぶ救命活動を続けることになる。
終戦当時、世界に取り残された日本人は約660万人にものぼった。「早く助けに行かねば…。負傷したり、病気を抱えたりしている」と純粋な正義感に突き動かされる。最初に向かった目的地は、日本からはるか南方へ約4,500キロ離れたマーシャル諸島にあるジャルート環礁。それも米軍が日本近海へ投下した機雷は、計6万個といわれ、死の恐怖と戦いながらの救出活動でもあった。ジャルート、ウォッジェ、ブーケンビル、シンガポール、レンパン島、サイゴン、旧満州…「鳳翔」が祖国へ連れ帰った引揚者の総数は約4万人にのぼった。終戦から約1年で、山本さんたち元海軍兵たちの尽力により約500万人が帰国を果たした。そして、「鳳翔」もその役目を終えた…
元新聞記者でもある戸津井氏は、「原稿を書きながら、何度も涙が込み上げてきた」と記している。それは山本さんたちの功績が、我が国でほとんど評価されず、メディアが取り上げてこなかったことへの後悔や義憤でもある。
今年1月、山本さんは96歳でこの世を去った。最後の頁で穏やかに微笑む山本さんの写真が掲載されている。「語り継ぐことが私の使命です」という言葉と共に。
全国の書店、AMAZONなどで販売中。