6月号
【新緑の六甲山を行く】白髭神社
きつねとグルームの絆をいまに伝える小さなお社
記念碑台前と丁字ヶ辻のちょうど中間あたりにひっそりと佇む白髭神社には、六甲山の開祖、英国人のアーサー・H・グルーム(1846~1918)にまつわる知られざる物語が秘められている。
ある日、グルームが六甲山の自宅で寛いでいると、猟師に追われてきたのか、尾っぽの先が白いきつねが逃げ込んできた。グルームはそのきつねをかくまい、餌を与えた。すると、2匹の親きつねと3匹の子ぎつねが毎日のようにグルーム邸に姿を見せすっかり懐き、時にはグルームの膝の上ですやすやと微睡むように。
ところがそんな幸せな日々は長く続かず、グルームは怪我がもとで亡くなってしまった。すると、その日を境にきつねの親子は全く来なくなってしまう。
それから1年ほど経った冬の日のこと。グルームの子息の家に見知らぬ5人の男が訪ねてきて、そのうちの1人に尾っぽの先が白いきつねの霊が乗り移っていると伝えられた。グルーム家の人たちはその霊を家の中に祀るようになり、やがて1933年、六甲山中に遷御、白髭大明神、白菊大明神と名付けて奉祀したのが白髭神社だ。
この六甲の守り神は創建90年を迎えるが、現在、前を通る県道16号の拡幅・歩道整備がおこなわれており、敷地内も工事の対象区域となっているため移設される予定だ。場所は現在地とほとんど変わらないが、土地の切り下げのため2メートルほど低い位置になる。地元の財産区が管理する敷地はやや狭くなる一方で参道の急階段がなくなり、歩道から入りやすくなってお詣りが便利になりそうだ。きつねたちも新しい住処を心待ちにしているだろう。
工事完了は来年春の予定。ドライバーは運転しやすく、歩行者は安全になり、六甲を訪ねる人たちにも嬉しい。心通わせたきつねたちが宿るお杜の前で、六甲山の発展を願ってやまなかったグルームの夢がまたひとつ叶うことになるだろう。