5月号
高山荘華野に誕生した 銀泉付の新客室「八角蓮」
冴える匠の技と世界に通じる美意識
独創的な感性で存在感を放つ高山荘華野に、銀泉の浴室を備えた新しい部屋がお目見えした。伝説の数寄屋大工の技を継承する中村外二工務店が2022年に手がけた客室「双葉葵」の美学と感性を踏襲しつつ、カジュアルな佇まいに仕上がっている。春を告げる純白の花の如く、美しい空間は、「大人の隠れ宿」に相応しい新しいスイート・ルーム「八角蓮」である。
ドアを開ければ、手前から奥へと、天井のタモのまっすぐな木目が奥行きを感じさせる。左へ視線を向けると、なげいれの草花が季節を語り、さり気なく一幅のアートが飾られている。作者はヴェネツィア生まれで現在は京都を拠点に活動している30代の若きアーティスト、アンジュ・ミケーレ。銀紙に、若葉色で描かれた柔和なラインは、心を解きほぐし、想像力をかき立てる。
前室の右手には、ミニバーが、奥には書斎があり、静かに読書に耽るもよし、ワーケーションで利用するもよし。書斎左手にはウォークインクロゼットを配する心配り。荷物が多くなりがちな滞在でも、ここに収納すれば居室に床置きする必要もなく、広い部屋をより広く使える。ミニバー、書斎、ウォークインクロゼットはいずれも中村外二工務店の施工で、しつらえも見事で使い勝手も良い。
ベッドルームはシンプルでありながら、上品さを感じさせる。白い壁と天井が心に落ち着きを与え、ナラの無垢材は素足で歩いても心地良い。目を惹くのはどっしりとしたキングサイズの特注ベッド。シモンズの寝具とイタリア製のベッドスプレッドがあしらわれ、のびのびと雲の上にまどろむような寝心地だ。
壁にはバリ島でも活動しているオーストラリア人の芸術家、グラハム・オールドロイドのペインティングが、何年も前からここにあるかのように馴染んでいる。
洋室でありながら障子を採用しているのもユニークだ。これは吉村障子といい、日本文化とモダニズムを融合させた建築家、吉村順三のデザインで、和も洋も超越した普遍性を内包している。
部屋に置かれたソファはカウチスタイルで、ゆったりと肉厚なクッションに身をまかせてフリースタイルの寛ぎを。アームがやさしい弧を描くフォスカリーニのフロアランプも良いアクセントだ。
浴槽の内側は淡いブルーが美しい十和田石。なみなみと肌触りの良い銀泉が注がれ、窓の向こうは有馬の風情。誰にも邪魔されずに心身をほぐすことができるだろう。
「八角蓮」はひとつ上を行く客室であることは間違いない。ここで至福のひと時を大切な人と共に過せば、その本質が「空間」ではなく「時間」にあることに気付くはずである。
有馬温泉 高山荘 華野
神戸市北区有馬町400-1
TEL.078-904-0744
(お受付時間9:00~21:00)
https://www.arima-hanano.com/