5月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.20 神戸大学医学部附属病院 小児科
野津 寛大先生に聞きました。
赤ちゃんや子どもの病気全てを担当する小児科。中でも大学病院の小児科は難しい治療や手術が必要な子どもたちを受け入れる役割を担っています。専門分野を持つ先生方が集まり、多くの診療科と連携しながら治療に当たる神大病院小児科の野津寛大先生にお話を伺いました。
―大学病院の小児科が担っている役割は。
子どもさんが風邪をひくなど体の具体が悪いときにはアクセスの良い近所の開業医さんを受診し、入院が必要な病状であれば地域の中核病院で治療を受けます。神戸市なら甲南医療センターや中央市民病院、西市民病院などがあります。さらに専門性の高い治療が必要な子どもさんが大学病院へ来ます。一般の小児科とは少し違う役割を持つのが大学病院の小児科です。
―専門性の高い治療が必要な病気とは?子どもの病気全体の中で多いのですか。
悪性リンパ腫や白血病、骨肉腫などの悪性腫瘍、腎臓病でいえば透析が必要な患者さん、重度のてんかん患者さんなど、一般の小児科医では治療ができない病気です。全体の中ではごく一部です。
―赤ちゃんの病気も小児科の治療範囲ですか。
そうです。新生児医療は神大病院が力を入れている分野の一つで、兵庫県の総合周産期母子医療センターの一つが開設されNICU(新生児集中治療室)12床を備えています。周産期・新生児専門医と産婦人科医がタッグを組み、小児外科をはじめ他の診療科とも協力して新生児疾患の集中治療と妊婦さんのケアに当たっています。
―小児科には専門分野を持つ先生方が集まっているのですね。
成人の内科の場合は消化器内科、神経内科、糖尿病内科などに分かれていますが、子どもさんの内科疾患全てを扱う小児科では腎臓、血液、神経筋代謝内分泌と大きく3つのグループに分かれ、それぞれ優秀なエキスパートが中心になって治療に当たっています。レベルが高いのはもちろん、グループの枠を超えて先生みんな仲が良いのが神大病院小児科の良いところです。
―大学病院小児科で治療が必要な患者さんの数は増えているのですか。
少子化にもかかわらず患者さんの数は増加傾向にあります。それは難病患者さんが増えているわけではなく、治療法の進歩により治せる病気が増えているからです。ただし最近は、クローン病や潰瘍性大腸炎が子どもさんにも見られるようになってきました。子どもの患者が増えた原因ははっきりしませんが、良い薬が開発され大人の場合と同じく治療効果を上げています。
―先生のご専門の腎臓で子どもさんの病気とは?自覚症状が出て最終的に大学病院へやって来るのですか。
子どもさんの腎臓の病気のほとんどが遺伝性のものです。遺伝子診断において高い実績を持つ神大小児科研究室には全国から年間500例以上の症例が送られてきます。遺伝子の種類によってさまざまな症状が出るいろいろな病気があり、腎不全に陥る病気が多いですね。むくみや尿量減少などの症状で発見されることもありますが、日本では学校検尿のシステムがあり、神戸市においても多くが学校で行われている検尿で異常が見つかるケースです。
―腎不全の治療法は?
治療法は主に人工透析と腎臓移植です。人工透析では腹膜透析を小児科が担当しますが、血液透析は腎臓内科の協力がなければできません。神大病院の移植医療は先進的で、中でも子どもの腎臓移植が行われているのは関西ではここだけです。泌尿器科の腎臓移植チームの先生が執刀されます。常に血液を送り込まなくてはならない臓器で子どもの細い血管をつなぎ合わせるのですから大変な手術だと思います。
―小児科では多くの専門の先生方との協力が不可欠なのですね。
例えば、腫瘍の中でも白血病は手術の必要はなく小児科で化学療法を行いますが、骨腫瘍は整形外科の先生方の力を借りて手術をして術後の化学療法を小児科で行います。その他、子どもの外科疾患専門の小児外科チームも活躍してます。全身麻酔が必要な嚙み合わせや歯の生えかわりなどに問題がある子どもさんの手術は口腔外科の先生方、血管腫の手術は形成外科の先生方にお任せして、術後は小児医療センターで治療を続けます。大学病院の小児科は専門分野を持つ小児科医が集まり、周りを他の診療科の先生方に支えてもらって成り立っています。
―小児医療センターはいろいろ工夫されていて明るく楽しそうな雰囲気ですね。
あのエリアだけ院内でもちょっと違う世界みたいでしょう?小さな子どもさんは院内保育士が上手に楽しませてくれていますし、近隣の市立小中学校から先生が派遣される院内学級もあります。Wi-Fi完備ですから部屋でずっとゲームをやっている子もいます。お母さんに怒られることもないのでね(笑)。退屈なこともあるでしょうが、「病院は居心地の悪いところ」と思うことなく過ごしてくれているようです。
―大きな手術の後はリハビリも必要なのでしょうね。
大人が1週間寝込んだら機能が衰えて回復は大変。でも子どもはちょっと動けるようになったらじっとしていませんからね。もちろん筋力の回復も早く、リハビリの必要はほとんどないです。
―何歳まで小児科の先生に診てもらえるのですか。
難病の子ども達を対象とした小児慢性特定疾病医療費助成制度の適用は20歳まで、その後は成人の指定難病の医療費助成制度に移行します。だからといって、私たち小児科医が子どもしか診られないというわけではないので、20歳を過ぎたらすぐに一般内科に移ってくださいとは言いません。大学病院は腎臓内科や神経内科をはじめ引継ぎ先の診療科が充実し、それぞれ優秀な先生方がそろっていて小児科の患者さんにとって恵まれた環境です。ところが小さいときからのお付き合いですから患者さんにとって小児科は居心地がいいし、私たちもずっと見守ってあげたいと思ってしまいます。小児科医がちょっと優し過ぎるかもしれませんね(笑)。
―保護者の方に接するに当たって心掛けておられることは?
ご両親から「うちの子はどうしてこんな病気になったのでしょう」と質問されます。生活習慣など原因がはっきりしていることが多い大人とはちがって、子ども自身は何の原因も作っていません。遺伝的要因の関与が大きいといっても、すごくたくさんある遺伝子の中で偶然起きたことですから誰にも責任はありません。大切なことは、子どもさんがどういう状態なのか、どんな治療法があるのかを時間をかけてきちんとご両親にわかりやすく説明することだと思っています。
野津先生にしつもん
Q.野津先生が医学の道を志されたきっかけは?なぜ小児科医に?
A.特別なきっかけはなくて、父親が精神科医でしたので自分もお医者さんになると思っていました。でも医学部に進んでから、精神科の病気は何だかモヤっとしていて私には向かないなと思い、小児科に魅力を感じ小児科医になりました。
Q.どんなところに魅力を感じて小児科医に?
A.一番の理由は、子どもたちは何をやってもかわいい。大人の病気の治療はいろいろな要因が絡んで複雑ですが、子どもさんの病気はとても純粋です。子どもたちの病気を治してあげたいという思いで小児科を選択しました。最近では今まで治せなかった病気も治療法が進歩して治してあげられるようになり、やりがいを感じています。
Q.日頃から心掛けておられることは。
A.常に明るく、ポジティブに!といっても心掛けているわけではなく、持って生まれたポジティブで、なぜ人はネガティブになるのか?理由が分からないんです(笑)。患者さんに対してもポジティブに接すると治療も順調に進みます。ネガティブに接する場合と全く違いますからね。
Q.野津先生ご自身のストレス解消法は?
A.うーん、私はストレスを感じることがなくて…残念ながら皆さんの参考になるような解消法はご紹介できないんです(笑)。もちろん、いやなことや辛いこともありますが引きずらないですね。これも持って生まれたものでしょうか。
Q.大学で学生さんを指導するにあたって心掛けておられることは?
A.とにかく、分かりやすく。学生のころ、分かりにくい先生の授業はとてもつまらなくて、退屈でしたからね。何が問題で、学生にとってどこが分かりにくいのかを常に検証しながら、そこをどう分からせるかを考えて授業を進めるようにしています。