3月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.18 神戸大学医学部附属病院 腎臓内科 藤井 秀毅先生に聞きました。
体の中でいろいろな機能を担っている腎臓。生活習慣病など、私たちにとって身近な病気と大きく関わっています。詳しいお話を腎臓内科の藤井秀毅先生にお聞きしました。
―腎臓はどんな臓器ですか。どういう働きをしているのでしょうか。
腎臓は腰のあたり背中側に2つあるそら豆のような形をした臓器です。その中に細い血管が絡み合った塊のような状態の糸球体という構造があり血液が流れています。ろ過機能があり水分などをこし出して尿細管という管へ送り出し、必要なものがあれば再吸収します。その後、太い尿管という管を通り、膀胱にためられ、不要物が水分と一緒に尿として体外へ排出されます。
―私たちがよく知っている尿を作る働きですね。
他にも腎臓にはいろいろな機能があります。血圧をコントロールするホルモンを作っており、過剰な塩分を排出したり必要なときには再吸収したりして調整しています。さらに紫外線や食べ物から体に取り入れられたビタミンDを最終的に活性化させ、カルシウムやリンを調節することやそれによって骨を強くする働きをします。
―生活習慣病をはじめ、いろいろな病気と深い関わりがありそうですね。
そうです。例えば糖尿病や高血圧のある人は腎臓の機能が落ちます。逆に体にとって大切な腎臓の機能が落ちると高血圧、高尿酸血症、骨粗しょう症などが発症し、生活習慣病があるとさらに腎臓の機能が悪くなります。体の外に排泄できなくなった老廃物がたまったり、役に立つホルモンが減ったり過剰に増えたり、原因はいろいろ考えられますが、脳や心血管の病気を起こしやすくなります。
―ホルモンを作る機能もあるのですね。
腎臓には赤血球の産生を刺激するホルモンを作る機能があります。今はどの部分で作っているのかも解明されています。それまでは腎臓機能が失われてしまい透析治療を受けている腎不全の患者さんの貧血治療に関しては、輸血を繰り返すしか方法がなかったのですが、腎臓が作るホルモンの代替ができる製剤が開発され輸血の必要がなくなりました。
―透析治療とは。
糸球体のろ過機能を腎臓に代わって機械で行う治療です。体の中から血液を抜き出して過剰な水分と不要なものを取り出し、必要なものだけ残して体の中へ戻します。
―どの段階で透析治療を始めるのですか。
内服薬や注射などで機能を補う治療だけでは難しくなった段階、目安としては腎臓の機能が6~7パーセントを残して働かなくなった時点で透析治療を始めます。透析に至る腎不全の原因としては糖尿病性腎症の患者さんが多く、糖尿病合併症およびその他の疾患の治療が進歩した今の日本では透析開始の平均年齢は70歳代です。透析開始後は感染症にかかりやすいというリスクはありますが、きちんと機能を補いながら治療をすれば質の高い生活が続けられます。
―腎炎は腎不全とは違う病気ですか。
腎臓の機能には関係なく腎臓の中で炎症が起きている疾患の総称が腎炎で、突然発症したものは急性腎炎、長期間かけて発症したものは慢性腎炎と呼びます。治療法のある病気もたくさんあり早く発見できれば完治が可能です。これを放置すると、機能回復が難しい腎不全の状態となってしまいます。
―大学病院では、生まれつき腎臓機能がうまく働かないというような難しい症例も多いのですか。
遺伝子異常、またはその他の理由で生まれつき腎臓に奇形や異常があり十分に機能を果たさない場合は小児科で治療されています。腎臓内科では年齢を重ねるにつれて分かってくる遺伝的な疾患を主に扱っています。
―どんな病気があるのですか。
例えば、腎臓の中に袋のようなものがたくさんできる「多発性嚢胞腎」は袋が大きくなり、腎臓が大きくなるにつれて腎臓の機能が落ちてきます。最終的に腎不全に陥り透析治療に入ります。腎臓が異常に大きくなって患者さんの生活に支障がある場合は動脈からの血流を人工的な塞栓により止めて、腎臓のサイズを小さくさせるケースもあります。また、別の疾患として、特定の酵素が作られず不要な物質が体内のいろいろな場所にたまる「ファブリー病」という病気があります。不要な物質が、腎臓にたまると腎不全になります。こういった特殊なケースも大学病院ですので積極的に受け入れています。
―神大病院は腎移植も行われていますね。
コロナの影響で今は少し減っていますが、国立大学の中でも移植手術では高い実績を持っています。倫理観や法律の問題があり、ほとんどが家族などから提供される生体腎移植でありますが、脳死の方から提供いただく献腎移植も合わせて神大病院では年間30~40件の腎移植手術が行われています。
―機能しなくなった腎臓を入れ替えるのですか。
残すことによって問題がある場合は取り出して入れ替える場合もありますが、ある程度の機能が残っている場合や摘出による合併症のリスク軽減のために別の場所に入れるのが一般的です。足の付け根の上の下腹部辺りに入れ、大動脈から足に向けて血管が分れる位置で腎臓と血管をつなぎます。手術をするのは泌尿器科の先生ですが、術前術後の評価や管理は腎臓内科と連携してカンファレンスを行い、コミュニケーションを取りながら患者さんの回復を目指します。チーム医療は神大病院のいいところだと思います。
―私たちはどう気を付けたらいいのでしょうか。
最近、腎臓検診の啓発活動で「沈黙の臓器にも出せる声がありました」と耳にされるのではないでしょうか。GFR値です。これは健診の項目にもあるクレアチン値から算出されます。しかしGFR値が低下している段階では既に腎臓の機能は低下し始めています。腎機能低下の速度を抑え、腎臓を保護する治療で生活の質向上は可能ですが、残念ながら失われた機能を回復させることはできません。ごく初期の段階であれば腎機能が落ちる前に根治治療が可能な場合もあります。健診の尿検査で尿たん白、尿潜血の異常が認められたら必ず専門医を受診してください。
藤井先生にしつもん
Q.藤井先生はなぜ医学の道を志されたのですか。
A.中学生のころからサラリーマンにはなりたくないと思っており、何らかの国家資格を取りたいと思っていました。弁護士に関しては、法学部に入れたとしても司法試験浪人をするかもしれない。何度も試験を受けるなんて自分には耐えられないだろうなあと思いました(笑)。高校生になって理系を選択し、その中でも生物系が好きだったので、入るのは難しいが確実に取得できる医学部に入って、医師免許を取ってお医者さんになろうと進学を決めました。
Q.循環器がご専門ですか。
A.私が大学を卒業した当時はどこの科に入るのかを卒業と同時に決めなくてはならず、いろいろ診れる内科を考えました。その中でも当時の第二内科はメインが糖尿病で、消化器や一般内科なので幅広く診られるかなと思い、選びました。大学病院の研修でいろいろな内科を回っているうちに、循環器がおもしろいと思うようになり、選んだ第二内科の診療範囲ではなかったのですが、医局長にお願いして国立循環器センターに行かせてもらい、3年間研修をして循環器の専門医資格を取りました。
Q.同時に腎臓も専門にされたのはなぜですか。
A.腎臓が悪いと循環器の疾患を多く発症し、しかも治療が難しくなります。ですので、腎臓内科医になればさまざまな循環器疾患が診れると思いました。難しい分野に挑戦して両方を診られるお医者さんになろうと、研修から帰ってからさらに大学で腎臓および循環器の勉強をしました。
Q.先生ご自身のリフレッシュ法は?
A.もともとスポーツが好きで、小さい頃から剣道をずっとやっていましたし、大学では野球もやっていました。今は子どもと一緒に出かけたり、野球を教えたりするのが楽しみです。子供と一緒に体を動かすのが一番のリフレッシュ法です。