12月号
田中達也が“見立てる” 神戸空港の未来
「MINIATURE LIFE×KOBE AIRPORT」9月30日 オープン
ミニチュア写真家・見立て作家
田中 達也さん
hitorigoto取締役共同創業者・
株式会社フェリシモ代表取締役社長
矢崎 和彦さん
「大人も子供も楽しめるテーマパーク」が神戸空港にオープンした。田中達也さん初の常設ミュージアム「MINIATURE LIFE×KOBE AIRPORT」。田中さんと神戸空港を結び付けたのは兵庫神戸のクリエイティビティをプロデュースするhitorigotoメンバーの矢崎和彦さん。「オープンはこれから進化するための第一歩」と話すお二人にお話を伺った。
空港にワクワク感を!
―矢崎さんと田中さんの出会いは?
矢崎 「田中さんの作品が面白い」と社内でも話題になっていたのでお名前は存じ上げていましたが、初めてお会いしたのは2020年10月にゲストとして神戸学校にお越しいただいたときです。
―神戸学校の印象は?
田中 熱心に聴いていただき、話がしやすくて楽しかったという印象です。その前後に矢崎さんと「こんなことができたら面白いね」などお話しして、振り返るとそれが神戸空港での展示やフェリシモとのコラボ商品につながり、ビジネス的にも広がりのある出会いだったと思います。
―「神戸空港をテーマパークに」という発想はどこから?
矢崎 小山さん(㈱パティシエ エス コヤマ代表取締役・小山進さん)から、神戸空港の飲食スペースリニューアルの相談がありました。私は小学3年生で初めて羽田空港に行ったときのワクワク感を思い出し、「飲食店が変わるだけでワクワクできるのか?」と考えました。飛行機と船、街を全部一緒に見渡せる神戸空港には他にはない魅力があります。「もっとワクワクできる場所にしたほうが絶対いい!」
―その発想が田中さんにつながったのは、なぜ?
矢崎 神戸学校に来ていただいたとき、「BE KOBEの横にでっかいブロッコリーがあったら面白いだろうな」と話しておられた田中さんが浮かんできました。「空港全部を田中さんの世界観で埋め尽くしたら、世界に類を見ないテーマパークになる!」。ところが飲食スペースリニューアル決定後の提案だったので、関係者の皆さんは随分苦労されたと思いますが、最終的には関西エアポートの山谷社長が、田中さんの展覧会に実際に足を運ばれ、田中ワールドの世界観に触れていただいたことで、決断していただきました。感謝です。
―依頼を受けて初めて行った神戸空港の印象は?
田中 新しくてきれいな空港ですね。空港から見える神戸の街を見渡して「ジオラマを作ってみたい」という気持ちになりました。僕が住んでいる鹿児島は福岡と新幹線でつながっています。九州の末端の鹿児島に賑わいがないと沿線は活性化しません。神戸も新神戸駅から末端の海の上にある神戸空港が賑わえば全体が賑わうんじゃないかなと思います。
オープンは進化に向けての第一歩
―空港での常設展示と聞かれていかがでしたか。
田中 普段は主に美術館で展覧会を行っていますが、それ以外の場所でも作品をいろいろな方に見ていただける機会がほしいと思っていました。ですので、空港という場所はそのような思いと一致していました。常設展示といっても自分の作品という以上に、より神戸寄りの視点が必要です。空港にはいろいろな所から人が来るので、神戸観光をより一層魅力的なものにできるんじゃないかなと。
―神戸の街を隅々まで歩かれたのですか。
田中 その街を知りすぎると、神戸を知らない方が見たときに見立てが伝わらないものになってしまいます。見立てというのは、皆が知っているものを知っている何かに変換すること。客観的に見るほうがいいので、神戸の印象的な部分をデフォルメして捉え、そこに神戸の方の意見を取り入れながら完成した作品です。見立てだからこそ、誰が見ても神戸らしさが伝わるようにしました。そこでポートアイランドがあったほうがいいといった神戸の方の意見を取り入れながら、たくさんの人に協力いただいて完成した作品です。
―オープンして実際にご覧になられた感想は?
矢崎 まずは嬉しかったですね。ただし今の段階で私たちと田中さんが構想している全体像の20~30パーセント程度しか完成していません。ここから進化していくための第一歩です。
田中 3・2メートルの巨大ブロッコリーのオブジェ「ブロッツリー」は100点に近い出来で実現しました。他にも温めているアイデアはいっぱいあります。例えば、駐車場に並ぶ車の一つが靴だったら、乗って遊べる大きな人参で見立てた飛行機など、今回は実現しなかった、空港の中の空間を生かした見立てのアイデアがたくさんあります。地元の企業さんにご協力いただき話題にしていただければ、もっともっと楽しくなります。
矢崎 面白そう。早くスポンサーが付かないかなあ(笑)。
地元企業の協力で新たな作品を
―たくさんの地元企業のパッケージも集まりましたね。
矢崎 名の知れた会社や知る人ぞ知る会社、これだけの企業の集合体で神戸が成り立っていることを誇らしく思います。協力企業さんは空港会社さんや商工会議所さんが募集し、hitorigotoも協力させていただきました。今後はパッケージに限らず神戸で作られた小さなものを受け付ける専用の窓口を設けて、見立ての素材に使えるかをまず田中さんに見ていただくようにしたいと思っています。
―田中さんの「言葉の見立て」も面白いですね。
田中 今は「ほっとコーSEA」と「お菓子な虹」だけなので見過ごされがちですが、屋上の展示室以外にも、あちらこちらに点在したらミニチュアテーマパークにふさわしくなるでしょうね。どれだけ置けるかがポイント。企業の方に認めて頂ける範囲で、「言葉の見立て」でも楽しんでいただけたら嬉しいです。
矢崎 見立てはどんなものを使ってもできます。例えば、ネジとか、ボタンとか…今はごく普通だけど、何かに見立てたらきっと面白い、やるなら空港中徹底してやったほうが絶対面白い!ぜひ皆さん、今後の進化をお手伝いください。
神戸空港国際化。
世界中の人たちに見てもらおう
―2030年、いよいよ神戸空港は国際化されます。田中さんの作品にピッタリですね。
田中 僕のインスタグラムのフォロワーの7割ぐらいは海外の人たちです。国際化とはとても相性がいいと思います。海外から来る人たちにまず「見立て」に触れてもらって、神戸を分かりやすく理解してもらうお手伝いができそうです。
矢崎 知らない世界に飛んで行けるワクワク感が日本だけじゃなく世界に広がります。経済面から言ってもいいに決まっている。嬉しいですね。田中さんのフォロワーは2年前、世界に240万人、今は364万人(2022年10月21日現在)。言葉を超えて理解できるということもありますが、クリエイティビティの高い人たちに響いているのでしょうね。神戸はそういう人たちが集まる街だから一本筋が通ったかなと思います。
―ひと言、PRを。
田中 空港へ「MINIATURE LIFE×KOBE AIRPORT」を見るために足を運んでいただけたら嬉しいです。空港や旅先での風景が「見立て」によって新鮮に見えたり、新しい発見に繋がるきっかけになれば。ミニチュアの展示だけではなく、飛行機も楽しめる、神戸の街並みも楽しめる、それで無料ですからね(笑)。ぜひ来てください!
―hitorigotoの今後については?
矢崎 阿部さん(兵庫ヤクルト販売㈱代表取締役社長・阿部泰久さん)、小山さんと私が3人で話していると面白いことしか出てこない。そこで、可能性の話を具現化しようとhitorigotoを立ち上げました。企業には顧問税理士さんや顧問弁護士さんがおられるように、私たちは顧問クリエイティブディレクターとして企業価値向上のお手伝いをさせていただきたいと考えています。クリエイティブの力が会社の未来を創ることは確実です。社内だけで議論していても過去からの焼き直しになってしまうことが多々あります。一方、未来の可能性は青天井に拡がっています。面白い未来づくりをご一緒できれば嬉しいです。興味をお待ちいただきましたたらHPなどでチェックして、お声がけください。まずはお会いしてお話してみたいですね。
【お問い合わせ先】
hitorigoto 担当:阿部恭大
メール:info@hitorigoto.co.jp
田中 達也(たなか たつや)
ミニチュア写真家・見立て作家。日常にある物を別の物に見立てアート「MINIATURE CALENDAR」を2011年からインターネット上で毎日発表し続けている。展覧会を国内外で開催。主な仕事に2017年NHK連続テレビ小説「ひよっこ」のタイトルバック、 2020年ドバイ国際博覧会 日本館展示クリエーターとして参画、など。Instagramのフォロワーは364万人を超える(2022年10月現在)。著書に「MINIATURE LIFE」、「Small Wonders」、「MINIATURE TRIP IN JAPAN」、「MINIATURE LIFE at HOME」、絵本「くみたて」など。