10月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第136回
オンライン診療とそのあり方について
─オンライン診療とはどのような診療ですか。
飯山 簡単に説明しますと、医師と患者さんの間でインターネットや電話などの情報通信を通じ、リアルタイムで診療をおこなうことです。以前は基本的に初診から3か月以上経過した、状態が安定した慢性疾患の患者さんが対象でしたが、新型コロナウイルス感染症の拡大に対応すべく、厚生労働省は2020年4月、初診時からの利用を「時限的・特例的」な取り扱いとして容認しました。そしてその半年後、当時の厚生労働大臣、行政改革担当大臣、デジタル改革担当大臣が、新型コロナウイルス感染症の収束後も初診含めて原則解禁することで同意しました。
─つまり、コロナのどさくさでなし崩し的に初診から解禁になった訳ですね。
飯山 2022年の診療報酬改定ではオンライン診療の診療報酬が増額になり、初診からの診療を認められ、距離要件が撤廃されるなど、政府は推進する方向を示しています。日本医師会は、この診療報酬改定に対し、オンライン診療が利益追求の市場になることを認めないというスタンスです。
─実際にどれくらいの医療機関がオンライン診療に対応しているのでしょうか。
飯山 オンライン診療を実施できるとして登録した医療機関の数は約1万6~7千で全体の約15%程度、うち初診から対応しているところは約6~7千で割合は約6%です(図1)。この数字はオンライン診療が解禁してから2~3か月後から横ばいで、思いのほか伸びていません。
─なぜ伸びないのでしょうか。
飯山 まず考えられるのは、日本では患者が受診したいと思ったときに自由に受診先を選ぶことができるフリーアクセスなので、すぐに医療機関にかかれるためにオンラインのニーズがあまりないということです。また、医療データのデジタル化や電子カルテの統一化が遅れていることも一因ではないでしょうか。
─どのような世代の利用が多いのですか。
飯山 電話診療、ネットを介したオンライン診療ともに、8割以上が50歳以下、約半分が30歳以下と若い世代が多い傾向があります(図2)。
―そもそも、オンライン診療にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
飯山 特に今回のパンデミックの状況下においては、直接接触がないので医療関係者、受診者双方に感染リスクの低減というメリットがあります。この利点を生かして、ホテル療養中や自宅待機中の患者さんの健康観察、発熱患者のトリアージなど保険診療以外での活用、医師が感染あるいは濃厚接触者と認定された場合の診療も可能になります。パンデミック下でなくても、対面で診察しなくても問診である程度の診断が可能な場合は、リーズナブルである点もメリットです。また、移動困難な患者さんや、離島などのへき地の患者さん、専門医が近くにいない難病の患者さんなど、通院しにくい場合はメリットが大きいでしょうね。
─逆に、どんな点に不安がありますか。
飯山 大きく分けると、医療の質に関わる点、情報システムに関わる点、運営に関わる点が挙げられます。
─医療の質に関してはいかがですか。
飯山 接触ができないため触診や聴診ができず、血圧や心電図などの測定ができないためバイタルデータが得られないなど、患者さんの状態を十分に把握することが難しいことが考えられ、対面診療より早期発見が難しいばかりか、見落としや誤診の可能性は高くなるでしょう。また、見落としや誤診が発生した際の責任の所在や過失についても不安があるようです。オンラインでは対面よりもコミュニケーションが取りにくいためトラブルの不安もあります。
─情報システムの面ではいかがですか。
飯山 ハッキングや管理ミスなどによる個人情報の流出リスクを不安視する声があります。また、オンライン上では医師かどうかの確認が難しいので「なりすまし医師」の出現の可能性も考えられますし、逆に医師であることを示すために医師免許を画面に表示すると悪用される危険もあります。利用者側も、特に高齢者はパソコンやスマートフォンなどを使いこなすことが難しいので、現実的にインフラ面でオンライン診療が難しいというのも課題です。
─コストの面はいかがですか。
飯山 医療機関側は設備投資やスキル習得のための費用など導入のための経済的・時間的コストが負担になる一方で、診療報酬は対面診療より低く、さらに利用者も少ないため、費用対効果に課題があるようです。また、患者さんに医療費の自己負担分をどうやって請求・回収するかも課題です。
─業者が提供するオンライン医療ツールを利用すれば良いのではないでしょうか。
飯山 確かにオンライン医療ツールは便利で、診療時に自己負担金を請求することも可能ですし、お薬を直接郵送するシステムなどサービス面でもメリットはあります。一方で、医療機関のみならず、患者さんからも手数料を徴収するので、自己負担金が増えてしまいます。また、業者が乱立状態である一方、登録制や許可制ではないためその質の見きわめが難しく、悪意ある業者による情報漏洩などの可能性も否定できません。
─国民皆保険制度との関係についてはどう思われますか。
飯山 国民皆保険制度の意義を鑑みますと、フリーアクセスが原則ですので、希望すれば誰でも全国どこの医療機関でもオンライン診療を受診することが可能であるということになります。と言うことは、オンライン診療を保険診療として初診から購入的に認めるには、国民が等しくオンライン診療を受けることができる環境の整備が必要ではないかと思います。
─特に高齢者は端末を使いこなせない人が多いですから、オンライン診療の平等性が担保されるのはまだ少し早いのかもしれませんね。
飯山 現状ではスマホやタブレットですべておこなうというのは時期尚早で、誰もが馴染みやすい媒体を利用することも考えるべきでしょうね。一方でオンライン診療はパンデミックや災害などの非常時に全国民が等しく必要な医療を受けることができる仕組みの第一歩になることができると思います。そのためには医療側も受診者側もストレスフリーであるような仕組みが求められます。今後、国によってそのようなシステムが構築されることを期待しつつ、それを受けて医療側も適切な形で使われるようなスキームを提案することで、医療の質を担保できるオンライン診療が可能になるといいですね。