12月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第114回
ウィズコロナ時代へ
これからのかかりつけ医の役割
─新型コロナウイルスの流行の前後で、一般の患者さんにどのような変化がありましたか。
杉町 まず、医療機関を受診することが感染のリスクを高めると思われて患者さんの受診抑制があり、実際に患者数の減少がレセプト件数の減少にあらわれています(図1)。特に高齢者や子どもさんが受診を控えられておられると感じますね。また、流行初期の段階では感冒などでも軽度な症状では自宅待機、受診を控えるように指導したことも影響していると思われます。これについては処方日数の延長、場合によってはオンライン診療で、皆様の不安に対応するようにしています。
─医療従事者にはどのような変化がありましたか。
杉町 医師、看護師など医療関係者の意識にも大きな変化があると思います。感染予防策を取っているとはいえ仕事中も常に感染リスクがあり、これが大きなストレスになっています。新型コロナ陽性者とわかっていれば完全な感染防御対策をおこなえばいいのですが、一般外来に受診された患者さんが新型コロナ感染者かどうかわからず、受診時には問診などによりトリアージをおこないますが無症状でも可能性は否定できません。海外で医療従事者もたくさん亡くなっていることを考えれば、神経質にならざるを得ませんでしたね。
─新型コロナ感染症の患者さんに対応されたそうですが。
杉町 兵庫県でもまだあまり確認されていない、非常に早い時期に対応しました。患者さんの主訴は発熱でしたが息切れが強く、新型コロナ感染症を疑い帰国者接触者外来への受診を調整していただいたところ、患者さんには交通手段もなく家族と連絡が取れなかったので救急車を要請しましたが、感染の可能性が高いと搬送してもらえませんでした。行政にも応援を求めましたが、陽性者でなければ何もできないと断られました。患者さんの状況も思わしくなく、結局、PPE(感染防止のための防護具)をつけて自分の車で雨の中、窓を全開にして患者さんを病院まで搬送する判断をしました。自院ではすでに感染防御対策はしていたので何も問題はありませんでしたが、その頃はまだウイルスについてわからないことが多かったので、私も2週間の自主休業を余儀なくされました。もちろん私も職員もそして患者さんにも問題はありませんでした。一方で、あくまで「感染疑い」の段階での診療であったため何の保証も得られず、経済的には大きな負担になりました。
─風評被害などはありましたか。
杉町 風評被害では大変な思いをしましたね。我々としては発熱患者さんを受け入れて新型コロナ感染症を疑い対応したということになりますが、一般的な言い回しでは「あの医院からコロナが出た」ということになります。当院の写真を撮りに来る人までいました。私が重症で死にそうだとか、近づくなとかという内容のメールが回ってきたという当院の患者さんもいました。また、職員が保育所に子供を預けることができない事態にもなりました。我々としてはきちんと感染防御策を行ったうえで対応しているのですが、なぜか肩身が狭いような…とても悲しい気持ちになりました。
─それは大変でしたね。
杉町 一方で、かかりつけの患者さんには本当に助けていただきました。陣中見舞いに来てくださり窓越しでお話をさせていただいたり、お花を届けていただいたり。たくさんの励ましのお言葉をいただきました。また、診療を再開した時には涙を流してくださった方もおられました。職員も家族に小さなお子さんや高齢者がいるにもかかわらず、勤務を優先してくれました。本当に感謝しています。あらためて地域のみなさん、そして職員をしっかり守っていく必要があると感じました。
─今後、地域の医療体制はどうなっていくのでしょう。
杉町 受診抑制のために特に小児科、耳鼻咽喉科の診療所で受診者数の大幅な減少を認めています。コロナ禍においても、感染のリスクを負いながらも診療を続けておられる訳ですが、この状態が続くと場合によっては閉院しなければならない事態も出てくるのではないでしょうか。地域医療の崩壊につながらないかと懸念します。また、開業医の平均年齢は60歳を超え、70代の先生方もたくさんおられますし、診療科あるいは施設の立地条件により発熱患者に対応できない場合もあります。医師会員全員がそれぞれの役割を担い、地域医療を守っていきたいと考えています。
─11月から新型コロナ感染症に対する医療体制が大幅に変更されたそうですが。
杉町 かかりつけ医も手上げ方式でコロナ感染症の疑いのある患者さんも診察していくことになりました(図2)。しかし、残念なことにこの手上げした医療機関に対して危険であると認識される方が一部でおられるようです。ですが、この手上げしてくださった先生方こそが地域医療を守るために積極的に関わってくださった先生なのですから、絶対に誹謗中傷しないようにお願いします。また、手を挙げたということは、その診療所がきちんと感染症対策をおこなっている証拠です。
─私たちも意識を変えないといけないですね。
杉町 ウイルスについての知見がそろってきて、各医療機関も患者さんが安心して受診していただけるように感染症対策をしっかりとおこなっています。過度な受診控えは健康上のリスクを高めてしまいます。体調不良の方はもちろん、持病のある方は治療が必要ですので必ずご受診ください。また、健診やお子様の予防接種などの健康管理も重要ですので、かかりつけ医とご相談ください。これまでお元気で病気にもかからずかかりつけ医を持たない方も、これを機会に是非、何でも相談できる身近なかかりつけ医を持たれることをお勧めします。
─私たちが通院する際に気を付けることはありますか。
杉町 必ずマスクはしていただき、発熱・感冒様症状があるときは事前に連絡をしてからの受診をお願いします。厚生労働省のホームページに「新型コロナウイルス対策を踏まえた適切な医療機関の受診(上手な医療のかかり方)について」というコンテンツがありますので、是非参考になさってください。