5月号
縁の下の力持ち 第11回 神戸大学医学部附属病院 冠動脈疾患治療部
神戸大学大学院医学研究科
循環器内科学 講師
医学博士 大竹 寛雅さん
心臓の潤滑な動きを高度な医術で支える
24時間動き続ける心臓を支える冠動脈。
その疾患の診断と治療を、高度な医術を持った専門の先生方が支えています。
―冠動脈とは?
心臓の筋肉は血液から酸素や栄養分を貰いながら収縮と拡張を繰り返していますが、その供給源が冠動脈です。最も太い部分で内径4㍉から5㍉、心臓の外側を走り、細かい血管を伸ばして酸素や栄養分を心臓の筋肉に送り込みながら、だんだん細くなり心臓の中へもぐり込んでいきます。
―カテーテル治療はどんな心疾患の治療をするのですか。
主に、動脈硬化などが原因で血管内が狭くなり血液が十分に流れにくくなる狭心症、一歩進んで完全に詰まってその先へ酸素や栄養が届かず、心臓が壊死してしまう心筋梗塞の治療です。血管はレントゲンには写りませんから、カテーテルで心臓へ造影剤を送り込み、血管のどこがどの程度細くなっているのか詰まっているかを検査し、確定診断にも必要です。また、外科手術で行われていた硬くなった心臓弁を取り換える治療や、心臓に穴が開いている患者さんの治療にも最近はカテーテルを用いるケースもあります。
―主な治療方法は?
特に大きな手術を除いてほとんどが手首の橈骨動脈から、冠動脈の入口部分まで2㍉から3㍉の筒状のカテーテルを入れます。入口の部分で引っ掛けその先に針金を入れていき、風船を膨らませて血管を広げます。以前はそこまでの治療が主でしたが、今はステントという網状のものを血管壁に置き、組織が盛り上がって再度血管内が狭くなるのを防いでいます。特に問題がなければ、4日間の入院が標準的です。
―外科手術かカテーテル治療かの判断はどのように?
狭くなっている血管の場所や程度、他に持っている疾患、さらに高齢で外科手術後の回復が困難、心臓手術歴があり再度手術が難しいなど患者さんの背景まで考慮し、心臓外科の先生方とコミュニケーションをしっかりと取り、適した治療法を慎重に判断します。
―負担が軽いカテーテル治療を望む患者さんが多いのでは?
外科手術は多くの症例を積み重ね、長期の成果が見えています。一方カテーテル治療は比較的新しい治療ですから、そういう意味でのリスクはあります。複数箇所の血管が狭くなっている場合などにバイパスでつなぐ外科手術のほうが適している場合もあります。必ずしもカテーテル治療の負担が軽いわけではないことを患者さんにはきちんと説明し、納得していただいてから治療を進めています。
―カテーテル治療には専門医の高い技術が必要ですね。
心臓内科医はカテーテルを使う検査や簡単な治療は一通り経験します。患者さんの年齢層が高く病気も多様化しています。冠動脈疾患治療部のような専門部門でさらに技術を高めることが必要です。
―狭心症初期の自覚症状は?
運動したり、階段を上ったりしたとき、胸が痛くなりますが、しばらくすると痛みは消えます。その上、歯の痛みや肩こりなどに現れることもあり、気づきにくいのが初期の症状です。医師はいくつか考えられる要因を挙げ一つずつ消去していく鑑別法で本当の原因に辿り着こうと努めています。気になる痛みがあるときはまずかかりつけ医を受診してください。
―心筋梗塞まで進んでしまうと回復は難しいのですか。
病状が進み壊死してしまった心臓を回復させることはできませんが、残った機能を薬などで補いながら日常生活を送ることは可能です。
―大竹先生はなぜ、心臓内科を志されたのですか。
私はサッカーやラグビーをやっていましたので整形外科医になってスポーツ医学専門医になるつもりでした。が、研修で各科を回るうち、心臓病の患者さんがカテーテル治療を受け元気に歩いて退院されるのを見て、素晴らしい治療法だと思い心臓内科を専門にしました。
―良い治療法があるとはいえ、予防が肝心ということですね。注意することは?
実際に冠動脈の状態を見ると喫煙や油っこいものの食べ過ぎなどが影響していることがよく分かります。健診で血圧やコレステロール値が高いと言われた時点で放っておかずに、禁煙や食生活の見直しをすることが肝心です。