8月号
ベトナム元気X躍動するアジア 第20回|プノンペンの「ボレイ」開発―九月に新空港オープン
ベトナムの隣国・カンボジアの世界遺産・アンコールワット(シェムリアップ州)は著名な観光地ですが、首都プノンペン市の訪問者は比較的少数です。同市にはポルポト政権時代の「トゥールスレン虐殺博物館」があり、日本人観光客には忌避感があるのかもしれません。また本年五月にはタイとの国境紛争や日本人の詐欺犯罪もあった。これもイメージ低下の一因です。しかし現地プノンペンでは目を見張る経済発展が進行中。今回は、その近況を紹介します。
文・ 上田義朗
広大な大地に広がる多数の「ボレイ」
ボレイとは、カンボジア独特の高級住宅団地の名称であり、日本語で「長屋型低層高級住宅団地」と命名できるであろう。プノンペン市内から郊外に広がる広大な土地に次々と建設中。たとえば価格は、3階建て4LDKで各階にバスルームが付いて三〇万ドル程度。面積は三〇〇平米近くある。
カンボジアは地震がない国であり、建設費は格安。それにしても最低賃金が月額二〇四ドル(二〇二四年)と考えれば、素朴な疑問としては買い手がいるのか?


イオンモール4号店まで開業予定
その回答は第一に、カンボジア企業の管理職以上が銀行の住宅ローンを活用して購入する。第二に、中国人の高齢者夫婦がカンボジア人のお手伝いさん付きで老後生活を過ごす。第三に、外国人の現地駐在の人々が自己所有また賃貸で住む。このような購買者がいるとしても過剰供給の先行投資。今後数年間は空室が続くと予想される。
こういった購入者(予備層を含む)の人気店がイオンモールである。二〇一四年の1号店の開業から、4号店がSEAゲーム(東南アジア競技大会)競技場の近くに開業予定。1号店の店内にはシンガポールの紅茶店TWGが出店し、その高級感は日本の百貨店に匹敵すると思われる。

ベトナム企業のビジネスチャンス
カンボジアとタイは国境紛争が何度か発生している。本年五月以来、現在も国境は自由に往来できない状態である。ここでタイ製品に代わってベトナム製品の新規参入の好機が生まれる。長い歴史からみれば、ベトナムとカンボジアの関係は必ずしも良好とは言えないが、近世ではポルポト政権の打倒に貢献したベトナムがカンボジア政府からは尊重されている。すでに有力ベトナム企業が進出済みである。
写真は合計一千ヘクタールのカシューナッツとゴムの農園の収穫物の集積場。このほかにカンボジアはマンゴー・バナナ・パイナップルなどの全部を国内加工できずに、中国やベトナムに生鮮食品として輸出される。これらの農産物が国内加工され、その肥料が国内生産できれば、間違いなく経済成長に貢献する。

カンボジアの政治的安定性は高い
現在のフン・マネット首相は、フンセン前首相の子息で軍隊の出身。有力な野党が存在しない状況は非民主国家と連想されるが、しかし私見では、政治的な安定性は高い。経済面の高い自由度と着実な経済成長が、政治的な不満を解消させている。
本年九月にプノンペン新空港が開業予定。すでにシェムリアップ新空港も操業中。観光客の数はコロナ前を超えた。株式上場しているシハヌークビル港の業績は好調。タイやベトナムと異なった「農業大国」としてのカンボジアの経済成長が期待される。
上田義朗(うえだ よしあき)
流通科学大学名誉教授
日本ベトナム経済交流センター副理事長
外国人材雇用適性化推進協会(ASEO)代表理事
日本語教育機関未来創造推進協会(JLEFA)代表
合同会社TET代表社員・CEO












