03.08
WEB版 スペシャル・インタビュー|俳優 武田真治さん
【一語一語、一音一音に懸ける思い…5度目は最高到達点を目指す】
本場、ブロードウェイの人気ミュージカルを宮本亞門が演出。日本での5度目となる公演。「同じ役を5度演じることになったからには、セリフの一語一語まで、歌の一音一音まで丁寧に演じ切りたいと思っています。さらに、台本の行間に込められた思いも表現することができれば…」。俳優、武田真治がこう意欲を見せるミュージカル『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』が4月27日から29日まで、大阪市の梅田芸術劇場メインホールで上演される。初演時は30代。今、51歳となり演技に円熟味が増す武田に、この舞台に懸ける熱い思いを聞いた。
■選ばれる光栄
――2007年から一貫して演出家は宮本亞門さん。スウィーニー・トッド役に市村正親さん、ミセス・ラヴェット役に大竹しのぶさんを配してきました。そして5度目のトバイアス役にWキャストで武田さんが選ばれましたが、一貫して同じ俳優は、この三人だけ。5度目のキャストに抜擢された、その率直な思いはいかがですか。
一般的に舞台は再演、再々演…と続いていく中で、演じるキャストは世代交代していくのが自然なのですが、市村さん、大竹さんという〝リビング・レジェンド(生きる伝説)〟とともに僕が選ばれた。それは(宮本)亞門さんが僕の演技を認めてくれた、ということなのかなと思っています。それを直接、亞門さんに確認したことは、これまでないのですが(笑)。
――5度目となるトバイアス役ですが、演じながら〝進化〟していることを実感しているのでしょうか。
初演は今から17年前。当時、ミュージカルの経験はまだ2作目で本当に苦労したことを覚えています。というのも、スティーヴン・ソンドハイム(米ミュージカル界を代表する作曲家・作詞家)の作った楽曲が本当に難解で、これが簡単に歌ったり、セリフを曲に乗せることができないんです。正直、初演の稽古中、この壁を乗り越えることはできないのではないか…とも思いましたから。役作りに悩んでいる僕に亞門さんが丁寧に演出してくれ、何とか乗り越えることができたのです。当時を振り返れば、5度目となる今回の稽古での共演者との台本読み(ほんよみ=台本のセリフを読み合わせること)がスムーズに行き過ぎて…(笑)。人はいくつになっても成長するものなのだな、と実感しています。
――初演時、トバイアス役は、そんなにも難しかった?
正直、とても難しかったです。この役をやるまで僕は〝アイドル・アクター〟のような存在で、例えば『エリザベート』で演じたトート役は、ロックスターのような存在。社会の底辺で生きてきたトバイアス役とのギャップが、あまりにも大きかったですから。稽古中、僕が悩んでいると、亞門さんがそばへ来て、僕の靴の上から包帯をぐるぐる巻きにして、その上から血のりをつけてくれたんです。そして僕に、「馬車にひかれて、足を引きづった状態でトバイアスを演じてみて」と言いました。つまり役作りのための〝足かせ〟を作ってくれたんですね。これで役がつかめました。
■重圧を乗り越え
――実際に舞台で演じてみて、その手ごたえはありましたか。
当時は、まだツイッター(X)などSNSがない時代。観客の方たちの感想は、公演の後に手描きでアンケートを書いてもらっていたんですね。その中に、「どこに、どんな役で武田真治が出演していたかが分かりませんでした」という感想が書いてあって、とてもうれしかったことを覚えています。この〝足かせの役作り〟が成功したのだと実感できました。
――再演以降も、その演じ方は変わっていったのでしょうか。
亞門さんから、再演では「好きなように、自由に演じてみて」と言われたので、足かせをはずしてみたんです。でも、再々演からは、また足かせをつけることにしました。
――その理由は?
筋トレ(筋力トレーニング)で身体を鍛え過ぎて健康になってしまっていたんですね(笑)。だから、再々演以降は、また、足かせが必要になっていました。
――市村さん、大竹さんとの共演は刺激になりますか。
こんな大きな舞台で演じる俳優たちは、「絶対に自分は失敗したくない」と思うものです。ところが、市村さん、大竹さんの二人は違うんです。いくら失敗しても構わないから、と共演者たちに言うんですよ。それよりも、失敗をおそれるあまり、小さい芝居になってはいけないと…。大御所の二人と若い共演者たちの間にいるのが、僕ではないか?僕がこれまで悩んでやってきたことを伝えることもできれば、と思っています。
――改めて5度目の舞台に挑む意気込みを教えてください。
今回、稽古をしていて、このチームはこれまでで最高到達点に達しているのではないか。そう確信しています。復讐劇の壮絶な物語なのですが、華やかな歌も、みんなで歌いあげますので、ミュージカルの魅力を、ぜひ堪能してほしいと思っています。
(聞き手 戸津井康之)
プロフィール
武田真治(たけだしんじ)
1972年生まれ。北海道出身。
1989年 第2回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを受賞。以降、話題作に多数出演。『めちゃ×2イケてるッ!』や『みんなで筋肉体操』など。
近年の主な出演作品に、舞台『オリバー!』『スクルージ〜クリスマス・キャロル〜』『ファインディング・ネバーランド』、ドラマ『カナカナ』『自由な女神ーバックステージ・イン・ニューヨーク ー』など。
サックス奏者として数多くのセッションに参加、ソロアルバム『BREATH OF LIFE』発売中。
公演情報
ミュージカル『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』
日時:2024年4月27日(土)〜29日(月・祝)
会場:梅田芸術劇場 メインホール
作詞・作曲:スティーヴン・ソンドハイム
脚本:ヒュー・ホイラー
演出・振付:宮本亞門
出演:市村正親
大竹しのぶ
マルシア
山崎大輝
唯月ふうか/熊谷彩春(Wキャスト)
安崎 求/上原理生(Wキャスト)
こがけん
武田真治/加藤 諒(Wキャスト)他
問合わせ:梅田芸術劇場 06ー6377ー3800(10:00〜18:00)
https://www.umegei.com/schedule/1176/