3月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第151回
明石市民フォーラム
「どうなの?あなたの食事 PART2」について
─毎年恒例の明石市民フォーラムですが、2023年はどのようなテーマでしたか。
安尾 医師会と市民との大切な交流の場である明石市民フォーラムは、おかげさまで昨年で第25回を迎えることができました。今回は「どうなの?あなたの食事Part2」をテーマに、10月14日に明石市民会館中ホールで開催し、例年通り特別講演、紙芝居、シンポジウムの3部構成でおこないました。
─第1部の特別講演の講師はどなたでしたか。
安尾 武庫川女子大学 国際健康開発研究所所長の家森幸男先生をお招きし、「元気な脳を作る賢食術とは?―健康寿命は自分で延ばせる」の演題でご講演いただきました。家森先生は兵庫県健康財団会長をされており、健康ひょうご21県民運動を推進されています。京都大学医学部を卒業後、当時死因の第1位であった脳卒中の研究に取り組まれました。脳卒中の最大の要因は高血圧ですが、研究のために脳卒中を引き起こすラットを開発して死亡率を下げる食事や栄養素に関して分析した結果、蛋白質の摂取が脳卒中の予防に大切であることを発見したそうです。そのことを人間で証明すべく、1983年からWHOの国際共同研究で30年以上かけて世界25か国61地域を巡り、尿・血液・血圧などのデータを収集、さらにより正確なデータを得るため24時間蓄尿できる特殊な尿器を開発して、尿の成分から食事内容を分析し、食生活と健康寿命には密接な関係があることを突き止めました。
─どのような食事が理想的なのでしょう。
安尾 塩分やコレステロールが多いことが脳卒中や心筋梗塞の発症と関係があることはご存じかと思いますが、調査の結果、大豆に多く含まれるイソフラボンや、魚に多いタウリンが心臓や血管に良い影響を及ぼすそうです。イソフラボンの構造は女性ホルモンのエストロゲンと類似し、血管を拡げたりLDLコレステロールを下げたりするほか、骨粗鬆症の予防にも結びつくとお話されていました。また、イソフラボンの摂取量が多いと乳がん・前立腺がんの死亡率が下がるというデータを示され、1日あたり乾燥大豆60g、納豆1.5パックが適量だそうです。また、タウリンをたくさん摂ると心筋梗塞の発症率が低くなることもグラフで説明されました。
─日本では昔から大豆や魚をよく食べますが、それが長寿に結びついているのですね。
安尾 大豆+魚の摂取は葉酸や善玉コレステロールを増やすので和食は長寿食としてふさわしいそうですが、一方で大豆や魚をたくさん食べている人ほど塩分の摂取も多い傾向があり、塩分制限が必要であるとも指摘されていました。また、長生きのために食べて欲しい食品を「まごわやさしい(孫は優しい)」と覚えて帰ってほしいとのことでした。「まごわやさしい」とはまめ=大豆、ごま=種実、わかめ=海藻、やさい、さかな、しいたけ=きのこ類、いもの頭文字をとっています。それにヨーグルトを加え「まごわやさしいよ」だとなお良いそうです。
─第2部はどのような内容でしたか。
安尾 紙芝居で2つの事例を紹介しました。事例1は地域総合支援センターの日高美幸さんの経験をもとに「ひきこもりがちな生活で偏った食事」と題し、一人暮らしの高齢女性が夫を亡くした上にコロナ禍の外出自粛で気持ちが落ち込み、食生活がアンバランスになって体調を崩したのでかかりつけ医に相談して介護支援を受けるようになり、リハビリや地域の食事会への参加などをきっかけに元気を取り戻したというストーリーでした。事例2は、あかし保健所健康推進課の小島真恵さんの経験をもとにした「腎臓病患者の家庭での食事療法の支援事例」で、医師からの食事制限を受けて市の栄養相談を利用し、管理栄養士から調理方法のアドバイスを受け調整しながらおいしく食べる食生活を実践するというお話でした。いずれも問題点から解決策までわかりやすい内容でした。
─第3部はどのような内容でしたか。
安尾「楽しく食べて健康寿命」をテーマに討論がおこなわれました。シンポジストは家森先生、紙芝居を監修した日高さんと小島さん、石田内科循環器科の石田義裕先生で、まず座長の鈴木光太郎明石市医師会副会長より家森先生へ「賢く食べることと楽しく食べることには、塩分が薄くなるなど相反する点もありそうですがいかがですか」と質問し、「お酢や香辛料などを使って塩分を減らす工夫をして、1日に1食からでも健康食に切り替えてみてください」と回答がありました。
─第2部の紙芝居に関しての討論はありましたか。
安尾 日高さんは地域総合支援センターの役割や紙芝居でテーマになった「ひきこもり」を解消する方法などを詳細に説明されました。在宅診療をおこなっている石田先生は、一人暮らしや認知症の患者さんは来院されない限り把握が困難で、歯が悪くなり食事量が減るケースもあるので、訪問診療では管理栄養師や歯科医の役割も重要だと指摘され、嚥下障害も原因となっていることがあるので耳鼻科医や言語療法士による治療も必要な場合があると日高さんが付け加えました。小島さんからは、配食サービスでは減塩食や嚥下が困難な方に合った食事も選ぶことができるので、上手に活用すると良いのではというアドバイスがありました。そして家森先生が、栄養には遺伝子を超える力があるので「賢く食べましょう」と締めくくりました。
─今回のフォーラムの動画は、インターネットで視聴できるそうですね。
安尾 明石市医師会のホームページで公開していますので、ぜひご覧ください。
兵庫県医師会 広報委員会委員長
明石市医師会 理事
やすお脳神経外科クリニック 院長
安尾 健作 先生
明石市医師会ホームページ
https://www.akashi.hyogo.med.or.jp/