3月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.30
神戸大学医学部附属病院 総合内科 乙井 一典先生に聞きました。
「我々に診ない病気はない」をモットーに専門医が集まり、診断から可能な治療までを受け持つという神戸大学の総合内科。乙井一典先生に詳しいお話を伺いました。
―総合内科とは?
今の医療は、心臓は循環器内科、肺は呼吸器内科というように臓器別に分かれており、その隙間の病気や複数の病気を併せ持つ患者さんをどの診療科が診るのかという問題があります。そこで、ジェネラルマインド「個々の臓器ごとに診療するのではなく患者さん全体を診る」というコンセプトで、「全人医療」を実践するのが総合内科です。この部分はどの大学、どの病院でも共通していますが、神戸大学の総合内科はジェネラルマインドを持った内科の各臓器の専門医師や総合内科を専門とする医師が集まっています。現在、総合内科専属と内科の各診療科から派遣された先生との混成チームで、外来・入院及び救急の内科患者さんの診療に当たっています。
―受診する患者さんはどんな症状が多いですか?
最も多いのは原因の分からない「発熱」が長期に渡って続いている患者さんです。大半は感染症、膠原病、がんなど何らかの病気で発熱していますが、自律神経の崩れや何らかの精神的ストレスの影響で発熱しているケースもあります。次に多いのは「痛み」で、関節痛や神経痛、原因不明の痛みもあります。原因が分かり治療法があればいいのですが、原因が分からずペイン外来や漢方外来で痛みを和らげる治療をしてもらうこともあります。ただ「我々は専門外なので」と診療を終了するのではなく、患者さんの困っている症状をどうすれば和らげることができるのかと考え、いろんな診療科に相談し患者さんに寄り添うようにしています。
―乙井先生ご専門の静脈血栓症・浮腫外来が総合内科にあるのはなぜですか?
静脈血栓症はいろいろな診療科で診られている患者さん誰にでも起こり得る病気です。他の病気に合併しやすく、特にがん患者さんはそうでない人の約5倍発症しやすいと言われています。元の病気がどんな状況でどんな治療を受けているのかを把握しながら血栓症治療を進めなくてはいけません。もともと私が循環器内科を専門にしていたこともありますが、他の診療科と関わる機会も多い総合内科で専門外来を始めることになりました。8割以上は足の静脈に血栓ができ、主な症状は「足の浮腫︵むく︶み」です。しかし足の浮腫みの原因は多岐に渡り、立ったり座ったりの日中に水分が足に移動することで夕方になると足が浮腫み、朝には軽減する日常生活に伴う浮腫みがある一方、長年原因不明のまま患者さんもかかりつけ医の先生も困っているケースが意外と多く、「浮腫」で困っている患者さんに対する専門外来も始めました。
―原因が分からない症状の患者さんに対して、総合内科では何から始めるのですか?
まずは問診と診察です。患者さんが診断名を教えてくれるわけではありませんので、有益な情報を聞き出し、診断にたどり着くためのキーワードを見つけることが重要です。そのためには患者さんやご家族の話をじっくり聞くのは当然ですが、患者さんの表情や診察室への出入りの仕方なども、血圧や呼吸などのバイタルサインや身体診察と合わせて参考になります。得られた情報からどんな病気なのか仮説を立てて必要な検査に進みますが、例えばコロナ抗原検査が陰性でもご家族にコロナ患者さんがいれば、コロナ感染は否定できません。100%白黒つく検査はなく、検査結果をどのように解釈するかは問診や診察からの情報が大きく影響します。今後AI(人工知能)の進歩が診断の助けになるかもしれませんが、そのAIに判断させる大事な患者さん情報を問診や診察から得る能力は引き続き我々医師に求められると思いますので、その重要性を学生たちにも指導しています。
―結果が出たら専門診療科への橋渡しをするのが総合内科の役目ですか?
あらゆる診療科が揃っている神戸大学では、我々が診断し専門診療科にバトンタッチするケースもあれば、総合内科で診断から治療まで行うケースもあります。ただ複数の病気を併せ持つ患者さんの場合、我々が主治医となり扇の要のように各診療科と連携しながら治療を行います。一人の「スーパーマン」的医師がすべての治療を行うのではなく、いろんな診療科が連携しながら治療を行う現在において、神戸大学総合内科は多種多様な専門の医師が集結しているだけに、お互い切磋琢磨し足りない部分を補い合いながら治療を行っていく(病気に立ち向かっていく)「アベンジャーズ・チーム」を目指しています。
乙井先生にしつもん
Q.乙井先生が医学の道を志されたきっかけは?
A.小学生のころ、野口英世の伝記を読んだのがきっかけです。どの部分に影響を受けたのかはっきり覚えていませんが、やけどで負傷した手の手術を受け医者への道を志したという月並みな部分ですかねえ、多分(笑)。今は、病気が治って笑顔になった患者さんやそのご家族の顔を見るたびに「医者になって良かった」と思っています。
Q.循環器内科を専門に選び、総合内科医の道に進まれたのはなぜですか?
A.心臓のことを知りたいと循環器内科を専門にしてきましたが、例えば「胸が痛い」と訴える患者さんがいて心臓を調べて異常がなくても、何とか原因を突き止め、患者さんの症状や不安を取り除けないかと思い診療していました。それがジェネラルマインドを持って全人医療を実践する総合内科医の道につながったのだと思います。
Q.大学で学生さんに接するにあたってはどんなことを心掛けておられますか?
A.問診で有益な情報を聞き出すには、患者さんに心を開いてもらわなくてはいけません。それと同じでこちらの伝えたいことが学生の心に響くように、学生とのコミュニケーションは心掛けています。昭和ネタやおやじギャグで愛想笑いや失笑のことも多々ありますが(笑)。ただどの診療科を目指しても自分の専門領域だけでなく、患者さんに寄り添い、患者全体を診るマインドを持った医師を目指してほしいということは強く伝えています。
Q.乙井先生の健康法やストレス解消法は?
A.寝ることですかねえ。もともとポジティブ思考なのでストレスが溜まることはあまりないですが、「ケセラセラ」ですかね、寝て目覚めたら悩みごとも何とかなる気になります。それにどこでもすぐに眠れます。だからストレス解消法は皆さんにアドバイスできることがなくて・・・すみません(笑)。