3月号
⊘ 物語が始まる ⊘THE STORY BEGINS – vol.40 大阪 アジアン映画祭
アジアの映画の最新作や話題作が一堂に集う第19回「大阪アジアン映画祭」が3月1~10日、大阪市内の映画館、シネ・リーブル梅田など4会場で開催される。2005年から年一回、関西地方で開かれてきた唯一無二の〝アジア映画の祭典〟で、今年は24カ国・地域から計63本が上映される。同映画祭プログラミング・ディレクターの暉峻創三さんに、今回の映画祭の見どころなどを聞いた。
文・戸津井 康之
関西唯一無二の〝アジア映画の祭典〟
第19回「大阪アジアン映画祭」3月1日開幕
秀作ひしめくコンペ部門
アジア映画だけに焦点をしぼった国際映画祭は世界でも珍しいうえに、来年で20回の節目を迎える長い歴史を誇る『大阪アジアン映画祭』は世界の映画関係者たちも注目する一大イベントだ。
それを証明するように、「今年はアジア各国から昨年の約1・4倍の応募作があり、世界の国際映画祭の中でも、年々、映画監督や俳優たちからの人気、映画関係者の注目度は高まってきていることを実感します」と暉峻さんは語る。さらに、「アジア各国の映画のレベルが格段に上がってきており、全応募作品の中から上映作品を選び出すのに、とても頭を悩ませました。今年は特に…」と強調した。
部門ごとに見どころを聞いてみよう。
まず、グランプリ(最優秀作品)などを選ぶメーンのコンペティション部門。
「計14本中、日本映画が3本も入っていることが今回の特徴。昨年も4本が日本からの作品だったのですが、近年、アジア全体での日本映画の健闘が目立っています」と暉峻さんは話す。
世界初上映となる『水深ゼロメートルから』はベテランの領域に入ってきた山下敦弘監督が得意とする青春群像劇だ。
一方、『においが眠るまで』は新人の東かほり監督。「過去作を振り返ってみても、コンペ部門に選ばれたアジア各国の監督の中で東監督は最若手といえます。次作が期待される注目の存在になるのは間違いないでしょう」と暉峻さんは言い、「もし、グランプリを獲得すれば快挙です」と期待をこめる。
タイ映画の躍進
最新のアジア映画の潮流を知ることができるのが、同映画祭の大きな魅力だ。
「ここ数年のタイ映画の躍進が目覚ましい。米アカデミー賞をはじめ、世界で大躍進中の韓国映画の後は、タイ映画が続くのではないか、といわれています」と暉峻さんは分析する。
映画祭では特集企画「タイ・シネマ・カレイドスコープ2024」のプログラムが組まれている。ここではタイ映画計8本が上映されるが、注目されるのは、コンペ部門にこの中から2本が入っていることだ。
『親友かよ』はアッター・ヘムワディ監督の青春映画で、今年の米アカデミー賞タイ代表作品でもある。
もう一作は『Solids by the Seashore(英題)』(パティパン・ブンタリク監督)で女性2人を主人公にした社会派映画だ。
そして、タイ特集で最大の話題作が、昨年、タイで大ヒットした『葬儀屋』(ティティ・シーヌアン監督)。
「昨年のタイ映画界のNo.1のヒット作ですが、実はここ10年の期間を振り返ってみてもトップの記録。しかも、タイでは珍しいコメディ・ホラーというジャンル。さらにヒットが難しいといわれる、全編、タイの方言をセリフにしたという異色作です。まだ未定ですが、もし日本での公開が決まったら、大反響を呼ぶでしょう」と暉峻さんは太鼓判を押す。
日本未公開作が続々上映
日本ではめったに配給、公開されないアジア映画を観ることができるのも同映画祭の人気の大きな理由のひとつだ。
「最近、力をつけてきたバングラデシュの新作が今年も上映されます」と暉峻さんが語る、その一本が、日本初上映となる『リキシャ・ガール』(オミタブ・レザ・チョウドゥリー監督)。
今回も、神戸女学院大学文学部英文学科の学生たちが字幕製作で協力している。
「リキシャとは日本の人力車のこと。バングラデシュと日本との関係についても知る機会になれば」と暉峻さんは話す。
日本初上映となる『サリー』(リエン・ジエンホン監督)は台湾・フランス合作映画。
「最近のアジア映画の特徴として、中高年の女性たちを主人公にした秀作が増えていることが挙げられます。まだまだ世界では、若者を主人公にした映画が多い中、この作品をはじめ、今回の映画祭では中高年の女性を主人公に描いた力作が何作も上映されますので、ぜひ注目してほしいですね」と暉峻さんは語る。
同映画祭でしか見ることのできない映画が期間中、特別に上映されるのも見どころの一つだろう。
2025年、大阪・舞洲で開催予定の「大阪・関西万博」に合わせた特別上映会「大阪万博と勅使河原宏」では、映画『1日240時間』(勅使河原宏監督)が上映される。
1970年に開催された大阪万博の自動車館で4面のスクリーンに投影された、当時、画期的な実験映画といわれたミュージカル調のSFファンタジー映画の復元版で、「脚本はなんと作家、安倍公房が手掛けていたんですよ」と暉峻さんは説明する。カーマニアとして知られる安倍は、当時、自動車館のシンクタンクのメンバーにも加わっており、その縁で同映画の脚本を書いたそうだ。同作の復元に関する講演も行われる。
『1905年の冬』(ユー・ウェイチェン監督)は今から43年も前、1981年に製作された作品だが、日本公開は今回が初となる。
台湾ニューウェーブを代表する名匠エドワード・ヤン監督が初脚本を手掛けている。
「彼が映画の世界へ入るきっかけとなったいわばデビュー作です。俳優として出演もしています。また、香港映画界の大ベテラン、ツイ・ハーク監督も俳優として出演しているので、台湾、香港、アジア映画ファンは必見です。お見逃しなく」と暉峻さんお勧めの貴重な一本だ。
映画祭の期間中は、作品とともにアジア各国から監督や俳優、プロデューサーたちも数多く来阪する。作品上映の後には質疑応答なども予定されており、「関西で映画を通じ国際交流できる貴重な機会として、ぜひ、その華やかな雰囲気も堪能してほしい」と暉峻さんは呼びかけている。
大阪 アジアン映画祭
上映スケジュール、作品情報などについては、
大阪アジアン映画祭 公式HPにてご確認ください