11月号
ほっこり治して快適なリハビリも
医療法人 甲風会 有馬温泉病院
理事長 中川 一彦さん
長年親しまれている有馬温泉病院が新しくなった。温泉に浸かりながら治療やリハビリができて介護が受けられる。夢のような病院について、「もっと広く知ってもらいたい」という中川理事長にお聞きした。
―新しい病院はいつから稼働するのですか。
中川 既に新病院建屋は運営を開始していますが、26年1月のグランドオープンを目指して、駐車場と遊歩道、そして足湯などの整備を進めているところです。
―日本でも屈指の温泉のお湯が病院内にあるとは贅沢ですね。
中川 当院の創始者が金泉、銀泉の両方を引いておられました。湯量も豊富でとても恵まれた環境です。入院患者さんの入浴には全て温泉を利用し、寝たままの状態でも、車椅子でも入浴できる設備を病棟各階に備えています。4階の特別個室には専用の浴槽を設置し、室内でいつでも温泉に入っていただけます。一般個室の患者さんもある程度お元気であれば金泉・銀泉浴が可能な個室浴室をご利用いただけます。非常に豊富な湧出量ですので、将来は職員用の温泉もつくりたいと思っています。
―温浴治療は効果が期待できそうですね。
中川 まず体を清潔に保ち、リラックス効果が期待できます。また温熱作用で血のめぐりが良くなり、老廃物や痛みの原因物質を流すことで痛みを緩和する効果があります。また免疫力を高め、組織細胞の修復能力を向上させると言われています。藤堂院長と私は、日本でも最古の学会の一つ、日本温泉気候物理医学会に所属する療法専門医・温泉療法医で、院長は温泉療法医会の監事も務めています。効果的な温泉利用を提案できると自信をもっています。
―患者さんには好評ですか。
中川 はい、皆さんに「良かった」と言っていただいています。また当院では、旧病院建屋の頃から枝垂桜の木の側に足湯を設けていました。新しい足湯では、車椅子でも利用いただけるように設計しました。いずれ枝垂桜も移植する予定です。春にはお花見がてら患者さんとご家族揃ってゆったりほっこりしていただけると、私たちも楽しみにしています。
医療から介護までが一つの流れの中にある病院
―医療と介護の両方に対応できる病院ということですか。
中川 日本において療養型病棟は、医療保険適用病棟と介護保険適用病棟の2つに分かれます。当院では現在の制度を利用して両方を備えています。そのメリットは医療から介護への一つの流れの中でリハビリテーションを続けていけるということです。通常は、病院で急性期医療が終わると、他の施設に移りリハビリや介護を受けることになりますが、当院では同じ病院内で受け続けることができます。しかも、温泉に浸かりながらです。
―主にどういった患者さんですか。
中川 リハビリが必要な方、術後の療養目的の方、がんの緩和ケアが必要な方、慢性疾患で入院療養が必要な方などです。急性期の治療が終わったからといって、実際はすぐに元の生活に戻れるケースは少ないと思います。また、病院で脳梗塞の治療が終わり、リハビリも終わり家に帰ると体が固まり動きにくくなります。そこでもう1回リハビリを受けて日常生活に戻りたいというニーズはかなりあると思います。これらの方は当院の個室に入っていただき午前中はリハビリを受け、温泉に入り、午後からはお世話をするスタッフの介助で散歩したり、音楽を聴いたりということができます。また、在宅高齢者のご家族のニーズに対応出来る様にショートステイ受け入れも積極的に進めていこうと考えています。
―要介護1・2の患者さんは難しいのですか。
中川 そうですね、一般病室の場合は、他の介護施設同様、要介護2以下の患者さんは困難なことが多いです。ただし、当院は個室が充実しており、個室の場合は受け入れが可能で、リハビリも積極的に行っていきたいと思っております。
緑に囲まれて、生活に役立つリハビリを
―リハビリテーション設備も充実しているようですね。
中川 創立以来、当院はリハビリに関しては阪神間において先進的な病院でした。最近では力を入れる病院も多くなってきましたので、当院でも更に充実を図ろうと考えています。理学療法士12名、作業療法士7名、言語聴覚士5名が居りますが、さらに増員し、手厚いリハビリを考えています。特に力を入れようとしているのが、現在整備中の遊歩道を使った〝緑の中でのリハビリ〟です。歩行はもちろん、ガーデニングや森林浴など、国立公園の自然に囲まれてのリハビリは他所ではなかなか実現できないものです。日常生活に戻れるリハビリ、生きがいにつながるリハビリを目指したいですね。
―そのための環境は最高ですね。
中川 緑といい空気、鳥のさえずり、4階の屋上展望からは六甲の山並みや三田の市街地が一望でき、四季折々変化する眺望を楽しめます。私も自宅にいるよりここに来たほうがホッとするくらいですから(笑)。職員も皆、そのようです。
―4階は特別フロアですね。
中川 特別個室2部屋と一般個室、パーテーション家具の仕切りでプライベートな空間を確保した準個室があります。このフロアには病棟専属のコンシェルジュを配置しています。遊歩道散歩の同伴や買い物代行など、生活全般のお世話をするスタッフです。また、個別に備えられたiPadからは簡単操作で自宅へのテレビ電話やコンシェルジュの呼び出しが可能です。
―一般病棟もあるのですか。
中川 もちろんです。一般病棟の4人部屋であれば保険診療の範囲内ですので部屋代は特に必要はありません。
―お食事も好評だとか。
中川 病院ですから旅館のように豪華なお食事というわけにはいきませんが、日常食では可能な範囲で季節に合わせたお食事、お正月や敬老の日にはおたのしみ膳、毎月23日にはイベント食などを提供しています。一番力を入れているのは、食べられなくなった患者様にいかにお食事を楽しんでいただくかということです。お粥をお寿司風の形にしたり、特別な調理法で形はそのままで非常に柔らかく、食べておいしい安全な介護食に、栄養課のスタッフ4人が工夫しながら一生懸命取り組んでくれています。食べられなくなった患者さんが当院に入院して少しでも食べることが可能になるように努力していきたいです。
―これからの有馬温泉病院について。
中川 有馬温泉の金泉、銀泉、緑に囲まれた環境は行楽地として全国的に知られています。宝塚、西宮、芦屋、神戸、そして大阪からも車で約1時間です。そこに有馬温泉病院があるということを是非、広く知っていただきたいと思っています。私も9月に着任して感じたのですが、当院のスタッフはとても優しいです。質の高い医療と介護を提供してくれると確信しています。
中川 一彦(なかがわ かずひこ)
有馬温泉病院 理事長
1981年、兵庫医科大学卒業。1983年、兵庫県立循環器病センター外科医員。1984年、公立浜坂病院外科医員。1985年、癌研究会癌研究所研究員。1988年、兵庫医科大学第二外科助手。1994年、兵庫医科大学第二外科講師。2001年、兵庫医科大学第二外科助教授。2005年、朋愛病院院長。3013年9月、有馬温泉病院理事長に就任、現在に至る。日本リハビリテーション医学会認定臨床医