4月号
期待される低侵襲医療
神戸大学医学部附属病院
院長 藤澤 正人さん
低侵襲医療の設備をはじめ、最先端の機能や技術を結集させた新しい診療棟が動き始めた。どんな医療が提供されるのだろうか。今後への展望も含め、今年2月に院長に就任された藤澤正人さんにお聞きした。
新診療棟、いよいよ始動
最先端の機能・技術を結集
―新診療棟は全面的に動き始めたのですか。
藤澤 4月から徐々に診療機能の移転を始めたところです。すでに病理部、光学医療診療部、腫瘍センター、放射線部、総合周産期母子医療センターの一部、手術部の一部が動き出しています。新診療棟部分の手術室は、今年度末には全面的に稼働し始める予定で、同時に改修される旧手術室と合わせて4室増え全部で17室になります。総合周産期母子医療センターも12月には全面的に稼働します。
―どのような治療をする病棟ですか。
藤澤 今までも神大病院の各診療科では積極的に低侵襲治療を行って参りました。心臓血管系の病気やがんをはじめ、いまや様々な疾患に対して低侵襲治療が行われてきています。それらに関わる治療設備をさらに整備・強化するために、様々な低侵襲治療や最先端の治療ができる総合的な診療機能を備えた新しい診療棟を増築しました。例えば、手術部では最先端の治療機器や様々な低侵襲治療ができる設備を備え、各手術室も従来よりかなり広いスペースが確保されました。
また、病理診断部は、病院において非常に重要な機能であり、このたび機能的にもスペース的にも整備され、手術部と上下で直結し手術中の病理診断の連携がよりスムーズになりました。放射線部も拡充され、最新のリニアック(放射線治療装置)が2台設置され強度変調放射線治療が可能になり、MRI、IVR(画像支援治療)室も増設されました。
光学医療診療部も最新の内視鏡設備を備え、診断・治療スペースが広くなり、より効率的な診療が可能になりました。現在の外来化学療法室は拡張され、通院治療室として新しい腫瘍センター内に設置されます。がんの薬による治療も入院から通院中心に変わってきていますので腫瘍センターでは外来でもゆったりと安心して治療を受けて頂ける機能を整え、さらに緩和ケア外来やペインクリックも隣接しています。どの施設も、医師にとっても患者さんにとっても機能性・安全性に優れたすばらしい施設になっていると思います。
―ほかにはどのような最新設備をそろえているのでしょうか。
藤澤 手術部には手術台と心・血管X線撮影装置を組み合わせた手術室(ハイブリッド手術室)を設け、最新の医療技術に対応できるようにしています。 また、国内では初めて現在最も解像度の高い術中3テスラMRIシステムを導入し、術中にMRIを撮影しながら手術することができるようになり、脳外科領域などでの難易度の高い疾患に対して高精度な治療が可能となります。また、すでに稼働している手術支援ロボットのダヴィンチ専用室、3D内視鏡での腹腔鏡手術専用室なども設けました。このように国内では最先端の医療設備をそろえていると思います。
―患者にとっても大きなメリットですね。
藤澤 新しい機器や技術が導入されれば治療の範囲が広がり、低侵襲かつ最先端の治療・手術も増えるでしょう。それに加え、今後求められるのは治療後のQOLのさらなる向上でしょう。例えば、がんを取り除いた後でも、治療前の機能をできる限り温存することが大切です。さらに、治療後早期に社会復帰ができるようなサポートも充実させる必要があります。そのためにはリハビリテーション機能が大切ですので、そこにも力を入れているところです。
―新しい総合周産期母子医療センターはどういうものですか。
藤澤 現在は備えていないMFICU(母体胎児集中治療室)を6床設け、重症の母体を受け入れる体制を整えます。さらにNICU(新生児集中治療室)も6床増床し、合わせて14床増床する予定ですのでより充実した周産期医療が可能となります。また、隣接して産婦人科外来も設置しています。
―チーム医療も大切ですね。
藤澤 今の医療は医師のほかに、看護師をはじめ薬剤師、検査技師、放射線技師、理学療法士、臨床工学技士など多種多様な職種のスタッフがチームを組んで医療を行わなくては成り立ちません。チーム医療推進のためにすべての職種において優秀な人材を確保するのは大変ですが、今後の病院の医療の質を大きく左右するものであり最も大切なことであると考えています。
新しい風をキャッチしながら
診療・教育・研究をバランス良く
―神大附属病院の役割とは。
藤澤 大学病院の大きな使命のひとつとしては、臨床研究を推進し、患者さんに新しい最先端の医療を提供することです。もう一つ大切な使命は、医学部学生、若手医師の教育・育成です。学生の間の教育、卒業後の研修、専門医取得に至るまで個人の様々な進路に関して、市中の病院と連携しながら指導し、次世代の優秀な医師を育てていくことが重要です。大学病院として、リサーチマインドを持った高度専門医療人の育成とともに臨床診断・技能にたけた優秀な臨床医を養成し地域医療を支えいくことが大事です。
―神戸市の医療産業都市との連携も必要ですね。
藤澤 大学病院も先端医療産業特区の中で、先端医療センターや中央市民病院、新たに移転してくる県立こども病院など他の施設と連携しながら機能分担を図り、新しい医療の開発や先端医療を提供していきたいと思います。大学病院として補填すべき点は他の病院と積極的に連携し、最先端の良い医療をすべての患者さんに提供できる病院を目指さなくてはなりません。
―地域の医療施設との連携は。
藤澤 地域の病院や関係機関の院長先生との情報交換の場を設け、連携を強化しています。また、地域の医療機関と病院内の地域連携室、患者支援センターを通じて密接に連携し、前方支援や後方支援に力を入れています。大学病院は先端医療を中心とした急性期病院ですので、紹介患者さんを中心に診療していますが、治療においては大学病院内だけで終了することが難しい場合もあり、後方支援病院と一体化した形で治療を進めるのが理想であると考えています。
―災害時をはじめとする救急医療体制は。
藤澤 阪神・淡路大震災後に大学に設置された災害・救急医療講座を中心に、どこかで災害が起きれば応援医師を派遣できる体制を整備し、いつでも災害時派遣医療チーム(DMAT)が編成できるようにしています。現在までに東日本大震災はもちろん、海外の地震や津波などの災害にも臨機応変に対応してきおります。ここでもやはり人材確保には苦労しており、昨年は約1カ月間、救急受け入れが制限される事態もありましたが、現在は回復してきています。今後、さらにER体制を基本として院内救急体制を整備し、地域の救急医療に貢献していきたいと思います。
―D&N(ドクター&ナース)プラス ブラッシュアップセンターとは。
藤澤 これは働く女性を支援するセンターです。神戸大学でも最近は医学部入学生の約2〜3割が女性ですが、一旦医師とした働いた後、出産、育児、さらに介護などの理由で離職するケースがよくあります。ところが、医療現場は新しい知識・技術が導入されどんどん進んでおり、2、3年離れると復帰が難しい場合もあります。そこで、そのような方々が徐々に医療現場に復帰できるプログラムを組み、復職サポートを目的に平成十九年に開設しました。医師に限らず、看護師など医療スタッフ全てを対象にしています。
―今後さらに機能拡充の予定は。
藤澤 今回の新診療棟も、看護師寮を撤去して何とか敷地を確保しました。敷地としては余裕があって建設したわけではなく、機能の引っ越しも一気にはできない状況です。全国でも有数の狭い敷地にある大学病院ですから(笑)。今後更にというのはできればいいのですが…容積率の壁があり、難しい課題ですが、何らかの対策を考えていかねばなりません。
―これからの神大附属病院について。
藤澤 患者さんにとっては安全・安心、信頼できる病院が一番です。一方で働くスタッフにとってはモチベーション高く働きたい、働き甲斐のある病院でなくてはなりません。学生をはじめ、若い医師にとっても先端医療が研修できる魅力ある病院でなくてはいけません。医療はどんどん進みますから、うまく風をキャッチして時代に乗り遅れないように臨機応変に投資し、建物・設備だけでなく人材の確保においても対応をしていきたいと思います。
神大附属病院は関西では中核の病院の一つであり、兵庫県内では先端を走り、医療をリードしてきています。今後さらに診療・教育・研究のバランスを取りながら発展し、日本の最先端を走れるよう努力しなければいけません。一方では、地域と連携し、兵庫県の地域医療にもなお一層貢献し大学病院としての使命を果たしていかなくてはならないと考えています。
藤澤 正人(ふじさわ まさと)
神戸大学医学部附属病院 院長
1984年、神戸大学医学部卒業。1990年、The Population Council, The Rockefeller University,Research fellow。2002年、川崎医科大学泌尿器科教授。2005年、神戸大学大学院腎泌尿器科学分野教授。2014年より、神戸大学医学部附属病院病院長。
神戸大学医学部附属病院
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